「10分間ぼーっとするだけでメンタルの状態が測れるかも?」みたいな研究(R)が出てたんでメモしておきます。
「反芻思考」とは何か?
まずは定義から確認しておくと、「反芻」ってのは臨床心理の世界で使われる言葉で、悲観的な思考のスパイラルにとらわれてしまった状態のこと。
例えば、仕事で失敗をしてしまったという出来事があったとき、
- 上司に叱られてショックを感じる
- 「なんて自分はダメなやつなんだ…」と考える
- 「そういえば今日は寝坊して会社につくのもぎりぎりになってしまった…」と考える
- 「昨日も恋人との約束の時間に遅れてしまったし…」と考える
- 「自分は何をするにしてもうまくできない人間なんだ…」と考える
みたいな感じで、「自動的に」どんどん自分の悪い面ばかりに思考が向いてしまってそこから抜け出せなくなってしまうんですよ。しかも仕事とは無関係のプライベートの出来事とかにまで派生してしまうせいで、自分全体が一貫してだめな人間のように感じてしまうわけです。
実際、反芻思考はうつを引き起こし、症状を重く、長引かせる第一の要因ともいわれているんですよね。
もっとも、上の例で「考える」という言葉をあえて繰り返した通り、あくまで自分を苦しめているのは「思考」であって、脳が勝手に生み出している「悪魔の囁き」にすぎないわけです。仕事で失敗し、叱られたことでショックを受けるのは止められないとしても、それをトリガーにして全く関係ない場面での失敗や後悔を掘り返してもなんの役にも立たないですからね。
だからと言って、無理やりに「ネガティブな思考を止めよう!」ともがいてしまうと逆にネガティブな思考が増幅してしまうんで、正しいやり方で対処することが肝要。
具体的には、マインドフルネスやACTの技法を用いたりとか、いろいろ効果が確認されている方法はあるんですが、それについてはまた別の機会に紹介することにします。
てなわけで今回はまず、「反芻思考をしがちな人はどんな思考パターンを持っているのか?」ってのを確認してみましょうー。
反芻思考をしがちな人はどんな思考パターンを持ってるの?
これはアリゾナ大学などの研究で、反芻思考をしがちな人とそうでない人は思考のパターンにどんな違いがあるのか?ってのを調べてくれております。
実験の概要は大体こんな感じ。
- 合計78人の学部生を集める
- 参加者には、10分間無人の部屋で座ってもらい、頭に浮かんだ思考等をそのまま口に出してもらって、その言葉を録音する
- さらに、反芻思考のレベルを測るテストに回答してもらって、2つの結果を分析する
ってことで、特に指示もなく自由に脳を働かせてもらって、それをリアルタイムで記録したわけです。日常のぼーっとしてるタイミングの思考を再現しようとしたんですね。
この手の研究では、「数分前に何を考えていたか覚えておいてもらう」「あとで自己申告式のアンケートに回答してもらう」みたいな方法で行われることが多かったんですが、思考発話法っていうこの方法ならもっと正確に測れるんじゃない?って考えたんですな。
また、口に出された思考の分析に関しては、
- ポジティブか?ネガティブか?
- 過去に関することか?現在に関することか?はたまた未来に関することか?
- 自分の内的な状態に関することか?外界に関することか?
- 10分間で思考はどんな風に変遷していくのか?
といったポイントをチェックしたらしい。
でもって、その結果は、こんな感じになりました。
- ポジティブな思考をしたあとでは、幅広いジャンルの思考に移っていったのに対して、ネガティブな思考の後では、思考のテーマがどんどん狭まっていく傾向が見られた
- 反芻思考のスコアが高い人は、ポジティブな思考をする時間が短く、ネガティブな思考をする時間が長かった
- また、反芻思考のスコアが高い人は、現在や未来よりも過去に思考を巡らせることが多く、周りの事象よりも自分にフォーカスして考える傾向があった
- さらに、反芻思考のスコアが高い人は、同じテーマで考え続ける時間が長かった
ということでやっぱり、反芻思考に陥りがちな人は、たった10分の間でもポジティブよりもネガティブに物事を考え、その結果視野が狭まって、さらにポジティブから遠ざかっちゃうみたいっすね。また、今はどうしようもない遠くの自分の後悔にジャンプしちゃうってのも想像に難くないでしょう。
また、反芻思考をしがちなひとは、10分間で口にした言葉の数が少なかったそうで、漠然とした不安感を言葉で表現できないのがさらにネガティブに拍車をかけているんじゃない?って感じがしました。この点に関しては、「マインドフルネスを実践している人は自動思考から距離をとるのがうまいし、うつのリスクや症状の程度も低い!」っていうデータと一致してることがわかります。
EWの代用になるかも?
もっとも、このエクササイズは別に悪いことばかりではなくて、参加者の多くが「日常の喧騒から離れてリフレッシュできた」「クリエイティブな体験だった」と答えていたんだそう。研究者曰く、
日記を書いたり、他の人と考えを共有したりして、自分の内なる考えを外に出す行為のパワーを示す研究があるが、今回の研究はそれを間接的に利用したものかもしれない。
とのこと。内的な思考を言語化して口に出すことで、エクスプレッシブライティンブのような効果を得られたのかもしれない、と。一回試してみて問題ないようなら、ふと空いた時間に頭の中をぶつくさ呟いてみるといいかもしれませんね。
さらに、研究者はこうもおっしゃっておりました。
多忙な現代社会では、精神的な休息をとることがますます過小評価されているようだ。西洋社会では、仕事を家に持ち帰ったり、メールやSNSで気を紛らわせたりして、常に外出しているようなライフスタイルが促進されている。
何もすることがない時間に携帯電話を取り出すという反射的な行為を抑えることで、精神的な健康や創造性に与える休憩時間の効果を実感できるようになるだろう。
てなわけで、一人の時間が増えた昨今においては、隙間時間をなんらかの行為で埋めてしまいがちですが、あえてぼーっとしたり、思考を観察、口述する機会を設けてみるのもいいかもよーという話でした。
参考になれば幸いです。質問やコメントなどありましたらTwitterやコメント欄などでご連絡いただけると嬉しいです。
それではっ!