「思い出は写真に残す!」っていうのはもはや常識となっている昨今。基本的に写真を撮る目的は「思い出を記憶に残すため」であるわけですが、最近では「写真を撮るとむしろ記憶に残らない!」って話もよく耳にするようになりました。
実はここら辺の議論はまだ決着がついておりませんで、「写真を撮ったら記憶力が下がった!」「むしろ下がった!」みたいな真逆な結果が複数報告されていたりします。そのような違いが生じている原因についても謎で、記憶との関係では写真とどう付き合っていけばいいのか?ってのははっきりしないんですよね。
思い出を写真に残すとむしろ記憶に残らないんじゃない?問題
そんなわけで新しい研究(R)では、「思い出す対象によって写真の効果は違うんじゃない?」ってのを調べてくれていて参考になりました。
まずは、研究チームの問題意識から。
写真を撮ることでコンテンツの記憶がよくなったという報告もあれば、真逆の報告もあり、この問題に対する研究はまだ明確な解に到達していない。
(中略)
知覚的な記憶に対しては写真を撮ることがポジティブな効果をもたらし、対象の微妙な違いを視覚的に識別するような課題においてはいい成績につながるのに対して、より概念的な記憶を問うタスクにおいては有害となるのではないかと私たちは仮説を立てた。
てなわけで、先行研究の結果の違いを鑑みるに、
- 視覚的な詳細の記憶
- 概念的な記憶
という2つの情報の種類によって、写真が記憶にもたらす影響は違うんじゃない?って考えたわけ。
といってもよくわからないんで、さっそく実験の内容を確認してみましょうー。
この研究では、5つの実験が行われておりまして、概要はこんな感じ。
- 合計525人の大学生を集める
- 参加者には32種類くらいの画像を見せるが、半数の画像はただ見るだけ、残りの半数はタブレットで写真を撮ってもらう(のちのテストのことは教えない)
- 20分後/ 2日後に、見た画像に関してどのくらい覚えているかテストする。行われたテストは以下の2種類
- 画像の詳細をどのくらい覚えているか?(3種類の似たようなベルを見せて、実際に見たのはどれかを選択する=視覚的に詳細な記憶を問う)
- 画像の概念をどのくらい覚えているか?(馬、魚、おもちゃの写真を見せて、どれに関する画像を見たかを選択する=概念的な記憶を問う)
って感じで、記憶の種類によってテストの成績に違いが出るかをチェックしております。さらに画像を見てからテストまでの間隔も2パターン調べられていていい感じっすね。
それで、どんな結果が得られたかと言いますと、
- テストの種類、間隔を問わず、写真を撮らなかった場合の方がテストの成績が大体10%くらい高かった!
ということで、写真を撮ることで記憶力はがっつり下がってしまうらしい。
さらに、選択式ではなく「見た画像をできるだけ多く書きだしてください!」っていう形のテストでも、
- 写真を撮らなかったグループのほうが40%くらい多く思い出せていた!
ってわけで、やっぱり写真を撮ると記憶には残らないみたい。
まとめ
研究チーム曰く、
私たちが日常生活で写真を撮るのは、すぐ直後というよりも将来にわたって出来事を「覚えておく」ためであるから、この発見(20分後でも48時間後でもテストの成績が下がったこと)は、特に注目すべきことだ。
とのこと。写真を撮った直後に記憶に残っていないだけならまだしも、長期的にも記憶に残らないとなると、普段写真を撮る際の本来の目的も損なわれてしまう可能性がある、と。
このような結果になった原因については謎ですが、
- 画像を見ている時間を調整しなかったから?(ただ、過去の研究では時間を調整しても、むしろ写真を撮る場合の方の時間を長くしても記憶テストの成績は写真を撮った場合の方が低かったという報告もある)
- 「写真を撮ること」と「画像を見ること」という2つのタスクを同時にこなさなければならず、いわゆる「マルチタスク」になっていたから?
- カメラを構えることで「これは覚えなくていい情報だな」と脳が解釈してしまうから?
みたいなことが考えられております。
そんな感じでまだまだ最終的な結論は出せないものの、現時点では「写真を撮るときは脳が外部の記憶デバイスに頼って脳内の記憶デバイスを十分に起動させず、サボりがちになる」ってくらいは覚えておくといいかもしれませんな。
研究チームも、
写真を振り返るのが面倒で、見返さないのなら、むしろ写真は全くとらない方がいいのかもしれない。
とおっしゃっておられました。
参考になれば幸いです.質問やコメントなどありましたらTwitterやお問い合わせのページからご連絡いただけると嬉しいです.
それではっ!
【参考動画】