「時間を正確に把握することは大事!」っていうのはよく聞く話です.仕事の生産性を向上させるだけでなく,人間関係における信頼の獲得においても重要なんていうのは子供でも知っていること.
もっとも,「じゃあ人間の時間を把握するシステムってどうなってんの?」って問題についてはまだまだ議論が活発に行われております.
つまり,「つまらない講義を聴いている時間は永遠に続くような感覚がする」「自分の大好きな映画を見ている時間は一瞬で終わる」なんてことはほとんどの人が納得できる体験だと思いますが,これってどういうメカニズムなの?っていうのははっきりしていないんですよね.
その中でも昔から有力な説とされているのが,「脳内のペースメーカーがパルスを発生させてそれが一定程度蓄積すると,経験と比較して時間を認識することができる」というもの.つまり,楽しい時間はあっという間,という体験は,ペースメーカーの動きが遅くなって,一定時間に発生するパルスの量が減少する結果,時間が早く経過したように感じる,というんですな.
この説は非常にわかりやすいんですが,フローニンゲン大学の研究(R)では,「それって違うんじゃない?」みたいな結果になっておりました.
この研究は,SrarCraft2っていうMRTゲームの28,354件のリプレイを分析したものとなっていて,具体的な内容は以下のような感じ.
- ゲーム内では,さまざまなタスクを同時進行的に進めていくことが要求されるが,中でも29秒間隔で発生する卵を孵化させるのが重要なタスクの一つ.
- なるべく29秒ぴったりで孵化させることが効率的なゲームの進行につながる.
- もっとも,画面を離れると秒数カウントのバーは見えなくなる.
- 孵化させる間のアクションと,いかに29秒に近い間隔で孵化させられるかをチェックする.
みたいになってます.要するに,現実世界のようにいろんなタスクが要求されるゲームの中で,「時間を正確に把握できているのはどんな人なの?」ってことを調べたわけです.他のタスクに気を取られていたら(他のタスクのアクションが増えていたら),時間を忘れて29秒を大きくオーバーしてしまうんじゃない?というわけですな.
ちなみに,このゲームではプロにもなると1分で450ものアクションをするらしく,これは卵のことばかりは考えていられませんわな.
で,結果がどうだったかというと,
- 時間間隔の正確性は,インターバルにおいて気がそれた量ではなく,インターバルのスタート時とラストにおいて気がそれた量に影響を受けていた.
だったそうです.要するに,卵のことがインターバルの間には完全に意識の外にあったとしても,インターバルが始まる時点できっちり意識しておけば特定時間が経過したのちにそれを認識することができる,と.気が逸れるタイミングが大事というわけっすね.
上で述べた伝統的な時間認識の理論で行くと,一定量のパルスがたまれば時間を認識できるということになるんで,意識が逸れるタイミングはあまり関係ないと考えられます.一方,この結果からは,最初にしっかり意識を持っていれば脳内の時計が勝手に動き出すんじゃないの?という仮説のほうに合致しているわけです.
この結果に対して研究チームは,
注意は,間(ま)そのものではなく,時計が読み上げられるべき時にだけ必要とされる.
とコメントしておられます.タスク間よりかは,タスクをいったん離れるときにおける注意,意識のほうが重要なんじゃないかということですな.
というわけで,この結果が現実世界にはどこまで当てはまるかはわかりませんが,マルチタスクがどうしても生じてしまう現代においては,とりあえず以下のようなガイドラインが参考になるんじゃないでしょうか.
- 特にタスクの始まりと終わりにはそのタスクのことだけにしっかり意識を向け,当該タスクを離れたらその別のタスクに全注意を注ぐ.
結局,「なるべくシングルタスクに近づけよう!」ってとこに落ち着くんですかねー.
とにかく,中途半端にマルチタスクをするよりも,しっかり意識を一つの対象に向けることで生産性も上がるし,時間を下手に忘れてしまうことも少なくなるかも?ってことで.また,別の研究によれば,時間評価の下手な人ほど自分の時間感覚を過信して時計を見ない傾向が確認されていたりするんで,時間を忘れがちな人はまずは「時計を見る」っていう至極当たり前のことから意識してみるのもいいかもしれません.
参考になれば幸いです.質問やコメントなどありましたらTwitterやお問い合わせのページからご連絡いただけると嬉しいです.
それではっ!