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結局「成長マインドセット」ってどうなんすか?について最近の流れを軽くメモ。

ノースカロライナ州立大学の心理学者ジェニ・バーネットが率いる7人の研究者からなるあるチームは、2002年から2020年の間に発表された53の研究をもとに、成長マインドセットの効果は生徒によって大きく異なることをPsychological Bulletin誌で報告している。

本論文ではマインドセットに関する短いオンライン・レッスンから多くのベネフィットを享受し、成績が上がった生徒もいれば、そうでない生徒もいた(そうでない場合も多い)と指摘されている。マインドセットの介入後、生徒の成績だけでなく幸福感が悪化したケースもいくつかあった、と。

結論として、成長マインドセットの介入は一部の生徒には有効だが、すべての生徒には有効ではないとしていて、特に低学力で恵まれない生徒が最も恩恵を受ける確率が高いみたい。これは2018年の有名なメタ分析と一致してますな。

ただし、本論文の発表から21日後まさかの同誌で別のメタ分析が発表され、こちらは「成長マインドセットの介入は一般的に全く効果がない」と結論付けている。

これはケース・ウェスタン・リザーブ大学の心理学者ブルック・マクナマラ氏らの研究で、63の研究を分析した結果、ほぼ半数の研究で設計が不十分であったり、成長マインドセットを支持しポジティブな結果を報告する金銭的インセンティブのある研究者によって実施されたものであると批判。

で、そのあとこの2つの論文の発表を受けて別の統計学者(本人は「成長マインドセットには興味はないがメタ分析は気になる」とコメントしている)が再度データを分析した結果、低所得者や低学力の生徒に対しては成長マインドセットの介入がポジティブな影響をもたらすことを確認していて、全く意味のないものというわけではなさそう。

結局のところ成長マインドセット研究の最大の問題は「知能」の定義にあると考えられている。というのも、研究者が知能を脳の処理速度や記憶力など、時間が経っても比較的安定している認知能力と考える傾向があるのに対し、一般人は知能を知識やスキルのミックスと考えることが多く、この解釈の乖離が大きな違いをもたらしている可能性がある(ご存じの通り、成長マインドセットのテストでは「あなたは自身の知能を変えることができない」みたいな質問が複数ある)。また、固定マインドセットの持ち主でも「知能の不足は努力で補える」と考え、実際成績の高い生徒も多い。

さらに、マインドセットが変わらずとも介入後に生徒の成績が向上するという現象も複数確認されており、成長マインドセット自体が学力向上の真の原動力なのかははなはだ疑問、という意見もある。目標の設定方法、困難に直面した時の乗り越え方など、マインドセットと同時に教えられる他のヒントが役に立っている可能性もデカい。実際、信念が変わってもその信念をどう行動に起こすかがわからなければ大した成果は得られないだろうという指摘も見受けられる。

ちなみに、成長マインドセットの生みの親であるドゥエック自身は成績の悪い生徒の方が成績の良い生徒よりもはるかに多くの恩恵を受けることは認めているが、それは成績の評価にはある種の天井効果があるためだと主張しており、成長マインドセットの介入は低学力者に限定せず、すべての生徒に実行することを勧めている(実際スタンフォード大の新入生にマインドセットのセミナーを実施していたりもする)。

皆さんはどうお考えだろうか。ぜひご意見をお聞かせいただければ幸いです。

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