健康

ここに住めば脳の老化を1.6年遅らせることができるぞ!って研究のお話【PM2.5】

大気汚染はこのブログでもnoteでもよく取り上げている話題の一つ。住む地域の空気の質が少し悪化するだけで呼吸器系から脳まで幅広い弊害が生じ、さらに寿命まで影響を受ける可能性があるんですよね。

となれば気になるのは、「空気の質が改善すればその弊害から保護されるのか?」ってポイントでしょう。大気汚染は時間をかけて体や精神を蝕んでくるわけですけど、引っ越しや自治体の努力で空気がきれいになれば病気のリスクを下げたり老化を遅らせたりできるのか?と。

ここに住めば脳の老化を1.6年遅らせることができるぞ!

そんなところで新しい研究(R)では、「住んでる地域の大気汚染レベルが大きく低下した人ほど脳の老化スピードが遅くなるぞ!」っていうありがたい結論になっておりました。今までも大気汚染レベルが低い地域の人ほど認知症のリスクが低い!みたいなことは確認されてましたけど、10年単位で居住地域の空気がどのくらいきれいになったか?ってことも脳をクリアに保つためには重要なんだって事っすね。

これは南カリフォルニア大学などの研究で、

  1. 米国48州に住む74~92歳の女性2,232人を集める(登録時に認知症を患っている人は除外した)
  2. 全員に対して、全体的な認知機能とエピソード記憶を評価するテストを毎年電話で実施
  3. 参加者の住所をもとに、モデルとEPAのモニタリングデータを用いて各人が1年間に曝露するPM2.5とNO2量を推定
  4. 最大20年間のフォローアップを行って、10年前の曝露量との差によって大気質の改善レベルを計算し、認知スコアの変化と比較する

ってな分析を行ってます。地理的な多様性が高く、ウィズインコホートで比較することでコホートの違いによる影響も最小限に抑えられているのがナイスなポイントっすね。

主たる結果に行く前にまずは、前提としてのデータを確認しておくと、

  • どの地域でも、研究登録前の10年間でPM2.5,NO2のレベルがいずれも減少していた
  • さらに登録後平均6年間で参加者の認知スコアが低下していた

だったそう。大気汚染を制限する政策が採用されたこともあって大気汚染レベルは減少し(主に、発電所、工場、自動車の汚染規制によるものと考えられる)、加齢に伴って参加者の認知能力も衰えていったわけっすね。



で、登録年、年齢、フォローアップ期間、地域、人種、喫煙、飲酒、運動、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、うつ、BMI、CVD既往歴、教育レベル、収入、ApoE e4(認知症リスクを高める遺伝子)等をすべて調整した結果、以下のようなことがわかりました。

  • PM2.5、NO2のいずれの場合も、改善レベルが大きいほど、全体的な認知機能の低下が遅くなる傾向があった(βPM2.5improvement = 0.026 per year for improved PM2.5 by each IQR = 1.79 μg/m3 reduction, 95% CI: 0.001, 0.05; βNO2improvement = 0.034 per year for improved NO2 by each IQR = 3.92 parts per billion [ppb] reduction, 95% CI: 0.01, 0.06)
  • 同様に、エピソード記憶の低下も遅くなる傾向が確認された(βPM2.5 improvement = 0.070 per year for improved PM2.5 by each IQR = 1.79 μg/m3 reduction, 95% CI: 0.02, 0.12; βNO2improvement = 0.060 per year for improved NO2 by each IQR = 3.97 ppb reduction, 95% CI: 0.005, 0.12)
  • この低下は、全体的な認知機能で0.9~1.2歳、エピソード記憶で1.4~1.6歳ほど若い女性に相当していた
  • 認知症の発症を考慮してもなお、エピソード記憶の低下スピードの抑制効果はなお有意だった

ということで、認知症になりやすいキャリアを持っていようと、脳が衰えやすいライフスタイルを送っていようと、「ここ10年で住んでる地域の空気がどのくらいきれいになったか?」って要素によって認知の低下スピードが影響を受けていたわけっすね。

まとめ

もちろんこの研究からは脳の構造的や生理的にどんな変化が生じてたのか?ってのは分かりません。低濃度の大気汚染であってもアミロイドβやタウが蓄積したり、脳全体や灰白質の体積が減少したりってことは多く確認されているわけですけど、空気がきれいになるとどういうメカニズムで脳機能を保護することにつながるのか?って話は今後の研究に期待ってわけですな。

また、この研究は高齢の女性のみを対象にしてるんで、結果をそのまま男性や他の年代の人にも一般化するのも危険でしょう。しかし、子供であっても大気汚染がひどい地域では認知的な発達が阻害されるってデータは複数あるんで、たとえまだ若くても決して他人ごとではないかもしれませんね。

この結果を受けて研究チームは、

我々の研究による新しい知見は、大気質の改善による健康効果には、高齢者の脳の健康維持も含まれる可能性が高いことを示唆している。

空気の質の基準を強化し、より澄んだ空気をすべての人に提供する努力を続ける価値があると政策立案者に伝わってくれることを期待している。

とのこと。これまでの大気汚染対策政策は主に呼吸器や心血管系への影響に配慮していたものの、認知症が急速に普及する中で脳への弊害にまで視野を広げれば、大気汚染対策を進めるメリットはより大きくなるんじゃないの?ってことですね。

まあそうはいっても我々としては行政に期待するだけではなく、外出時はマスクをしたり、なるべく大気質の高い地域に住み続けたり、食事や運動に気を付けたりといった個人でできる努力を今後も続けていかねばなーとか思う次第であります。

参考になれば幸いです。それではまたっ!

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