「メタ認知を起動して学習効率をあげるにはどうすればいいの?」みたいな話の続きでーす(#1)。このエントリでは、メタ認知を効果的に使うための「wait-generate-validateメソッド」ってのをチェックしていて、前回はステップ1の「wait-待て」ってポイントを見てみました。
今回はその続きで、ステップ2と3、さらにこのメソッドの効果をさらに底上げする方法みたいなところまで見ていきましょうー。
ステップ2.思い出せ
続いてのステップは、「想起」であります。「記憶を定着させるには思い出す作業が大事!」ってのはよく聞く話ですが、メタ認知の起動に当たってもこれは重要なポイントになってくるんですな。
つまり、一度学習した内容を時間をおいて思い出す作業によって、記憶への定着を促すと同時に、「今自分はどこまで理解・記憶できているのか?」っていう自覚の解像度を上げることで、「じゃあ次のチャプターに進んでいいのか?今の学習スタイルで大丈夫なのか?」っていう指針にもなるというわけ。
実際に行われた実験を見てみると、こんなものがあります。
- 実験参加者にインドネシア語の単語を覚えてもらう
- 半数の参加者には、復習のセクションで再度英語とインドネシア語のセットを提示される。残りの半数の参加者には、英単語だけを見せて、対応するインドネシア語を思い出そうとしてもらう(想起)
- その後、最終テストでどのくらいの成績を取れると思うか?を予想してもらう
その結果はご想像の通り、「想起」をしたグループのほうが最終テストに対する予想の精度が高く、最終テストに向けて何を学習すべきか?という意思決定に関してもより的確だったんですよ。
この実験では、単語を思い出すというシンプルな作業でしたが、そのほかにも、
- 単語の定義を書き出す
- キーとなる概念を思い出す
- 要約をしてみる
- 人に説明する
- マインドマップを作る
みたいな方法でも、メタ的な解像度をあげられることが確認されております。つまり、やり方は問わず、学習対象に適した方法で思い出す作業をしようぜ!って話っすな。
ただし、このステップでも注意点がいくつか提示されております。
- 必ず前回の学習から時間を空けてから行うこと:時間を空けた状態で知識の確認をすることで、より長期記憶に近い状態を作り出せる。これをしないと、長期記憶のために自分が何を、どのくらい勉強すべきかを正確にスケジュールすることができない。実際、時間を空けて復習したほうが、すぐに復習するよりも最終テストの成績が高いというのは多くの実験で示されている(シンプルに記憶に残りやすいということの他、メタ認知で学習に対する意思決定が向上していた可能性がある)。
- なるべく最終テストに近い形で復習をすること:試験範囲になっていることは勿論、単語を問う問題が出るのか、それともキーとなる概念を説明させる問題が出るのか等、試験の型に一致した「想起」をするのがメタ認知的にも好ましい。ただし、択一の問題が出るから択一でしか復習してはいけないという意味ではない点には注意。
といった感じ。2つ目の点に関しては、例えば、単語の発音を当てる問題に対策するために、その単語が使われている長文の読解問題をやるみたいなことをしている人が(試験でいい成績を取るという意味では)超遠回りになってしまっていることは想像しやすいでしょう。まあ、過去問とかがないときつい面もありますが、ほとんどの試験では大体の出題の方向性くらいはわかることが多いでしょうから、このポイントはあらかじめチェックしておくのが重要ですね。
ステップ3.チェックせよ
最後のステップは"validate”であります。
実際にこのステップでは何をするのかというと、
- ステップ2で想起した内容が間違っていないかをチェックする!
たったこれだけのことなんですが、2つ目のステップまでは当たり前にやっていてもこのステップは意外と疎かになっていることが多かったりするんですよね。
というのも、「今想起した内容が事実と合致しているか?」という評価に対してヒトは過剰に自信を持っちゃうんですよ。実際の実験でも、回答と正答を比較するとき、自分の解答が「まちがい」「部分的に間違い」であっても、「合ってる」と判断しちゃう傾向が確認されていたりします。普段の丸つけでは自信があったのに、試験本番になったら「本当にこれであってるのか?」って心配になった経験がある人も多いでしょう。
そして、この「自分の記憶が正しいか?」っていう判断の解像度が荒くなってしまえば、その後に自分が一番やるべき勉強の量・分野等を誤ってしまい、長期記憶のスコア、最終テストの成績も下がってしまうのは想像に難くないはず。
そんなわけで、自分が思い出した内容の正確性はちゃんと評価しようぜ!っていうわけなんですが、具体的な実践について研究チームはこうコメントしております。
例えば、大半の教科書には、各チャプターの終わりにキーとなる単語のリストがまとめられている。そのチャプターを勉強してから1日以上あけたのち、これらの単語の定義を思い出す練習をすれば、自分がそのチャプターで学んだことを正確にモニターするのに役立つだろう。
定義を正確に定着させるために、生徒たちは教科書の定義と自分が思い出した定義を慎重に見比べるべきだ。数学や科学の問題についても同様で、可能であれば、自分の回答を模範解答と慎重に比較するのがいい。
「なんとなくあってる」じゃなくて、細かいところまでチェックしたほうがいいよ!実は理解が不十分なことも多いよ!っていうわけっすね。
もちろんすべての参考書等でまとめのページや例題が載っていたりするわけではないですが、その場合でも自分なりに作ったテストの回答がちゃんと参考書の記述と一致しているか?ってのを確認する習慣はつけといた方がいいのかもしれないですな。
そうはいっても、「慎重にチェックするぞ!」って意気込むだけではどうしても自信過剰を完全に克服できないのは事実。そこで提案されているのが、「アイデア・ユニット・フィードバック」という戦略。
「アイデア・ユニット・フィードバック」ってのは、正答をキーとなる部分ごとに分けて、それぞれについて間違ってないか評価するという方法。入試の模試の解答とかに載ってる「部分点」みたいなのを想定するとわかりやすいかもしれません。
例えば、「水とは何か?」みたいな問題があった時に(ここまでざっくりした問題は現実にはないでしょうが)、
- 「酸素と水素の化合物」
- 「分子式ではH20」
- 「常温では液体」
- 「水素結合のために沸点が高め」
みたいに、解答にはブロックがあるわけで、「化合物」というものがわからないのか、「三態」がわからないのか?によって自分がこれからの勉強で重きを置くべき部分が変わってくるわけなんですよね。
にもかかわらずこれを「水について復習しよう!」って思っちゃうと、わかっているはずのところまで復習しなければならなくなって、余計に時間がかかるだけでなく、本来復習すべきところがおろそかになってしまうわけですね。
実際の実験を見てみても、
- アイデア・ユニット・フィードバックを使ったグループは、最終テストまでに勉強した時間、再読した量が少なかった
- さらに、最終試験での成績が約20%高かった
といったことが確認されてまして、非常にコスパがいい、逆に言えば、これをやらないと時間と労力のわりに成果が上がらなってこと。やるっきゃないっすな。
wait-generate-validateメソッドの達人チップス
以上でこのメソッドの基本は終わりで、これだけやってもらうだけでもメタ認知的に学習効果をあげる効果は十分なんですが、さらに効果を向上させるためのアドバイスが提示されてたんで、これもいくつか紹介しときます。
- 「想起」はアクティブに!:学んだ情報を思い出すときには、「再読」「ビデオの再視聴」みたいな受動的な方法ではなく、自分自身の頭の中にある断片の情報を統合する作業が必要。
- 「スキマ時間」で思い出せ!:数日前に学んだことをメモしておいたりして、電車の待ち時間、歯磨きの時間、行列の待ち時間とかに思い出してみる。定義を思い出したり、マインドマップを作ってみたり、一緒にいる友達に話してみたり、やり方は自由。
- 復習は1回じゃ足りない!:1回復習して思い出せたとしても、長期記憶として定着している可能性は高くない。特に試験のための勉強の際には最低3回くらいは「完全正解」になるまでチェックすることをあらかじめ覚悟しておく。
- デジタルデバイスには注意:紙の教材の場合に比べて、デジタルデバイスを使った場合には、知識の正確性の認識が甘くなりがちであり、すぐにヒントをクリックする傾向がある。「勉強にデジタルはありか?」問題についてはまだ議論が必要だが、「ちゃんと頭を悩ませて思い出す」ってのは意識しといたほうがよさそう。
まとめ
てなわけで、以上の方法を真摯に実践すれば、
- 自分の現在の知識レベルを正確に把握できる
- これから何をどのくらい勉強すればいいのか?を正確に認識できる
- 結果、効率的に知識が定着する!
ってのを実現できるはず。メタ的なモニタリング能力が高まるだけでなく、長期記憶に資する面も多く入っているんで、そこらへんを考慮してもナイスな方法なんじゃないでしょうか。
別にすべてを取り入れなくても、役に立ちそうな部分だけでも試してみていただければと思います。
参考になれば幸いです。質問やコメントなどありましたらTwitterやコメント欄などでご連絡いただけると嬉しいです。
それではっ!