ここ数日は、アメリカ大統領選の話題で盛り上がっていたみたいだったので、大統領選と言えばつきもの(?)の、「フェイクニュース」に関する研究についてメモ。
イエール大学の研究(R)では、実際にあった大統領選でのフェイクニュースを使って、真実性の錯誤効果について調べられておりました。
「真実性の錯誤効果」というのは、有名なバイアスの一つで、何回も同じ情報に触れていると、それが本当のことのように聞こえてくるというやつです。
これがまた、年齢とか、専門的知識の有無とかにかかわらず万人に襲ってくるバイアスなんで、常に気を付けていなくてはいけないんですよね。
情報にあふれる現代においては、意識していないとすぐ洗脳されてしまいますから、注意が必要です。
では早速研究内容の紹介へ。
当研究では、3つの実験から構成されているので、一つ一つ簡単に見ていきます。
実験1
この実験では、409人の参加者を対象にして、繰り返し情報を受け取ることによって、誤った判断をするようになるかを調べたのですが、ここではまず、明らかに正しい(間違っている)情報にターゲットを絞って調べられました。
つまり、「喫煙は肺によい」「地球は完全に四角い」みたいな明らかに間違った情報を与えてみたり、「牛は羊より大きい」「宇宙には15以上の星がある」みたいに、明らかに正しい情報を繰り返し触れることによって、その認識に変化があるのかを調べたわけです。
その結果、
- 明らかな情報については、いくら繰り返しても判断に変化はなかった。
ということがわかりました。
まあ、当たり前っちゃ当たり前なんですけど、先行研究では、あいまいな情報については、繰り返しによって判断が誤るようになったということが確認されているもんで、「当たり前」ってどこまでのことなん?ってことが疑問として沸くわけです。
つまり、その「当たり前な情報」と「曖昧な情報」の境目がよくわからんというわけです。
実際、フェイクニュースの内容を見てみると、その内容は普通に考えればあり得ないだろうというものになっているにもかかわらず、少なくない数の人がそれを信じてしまっていたりします。
そのボーダーラインを明らかにしようと、次の実験2が行われました。
実験2
この実験では、949人の参加者を対象にして、上述のボーダーラインを調べるとともに、誤った情報に騙されなくなるとは言わずともだまされにくくなる方法を調べる目的で行われました。
フェイクニュース独特のだまされやすい特徴なんかも調べられました。
- まず、参加者に12のニュースの見出しを見せた。半数の参加者には、12こすべてがフェイクニュースの見出しを、残る半数の参加者には、半分が正しいニュースで、残りの半分をフェイクニュースとした。(なお、これらのニュースは、実際にあったものだそう)。そのうえで、そのニュースをSNS等で共有したいかを「はい」「いいえ」「どちらとも言えない」で答えてもった。
- 次に、年齢や性別等のありふれた質問をした後で、「クリントンとトランプのどちらかしか選べないとしたら、次のアメリカの大統領としてどちらが好ましいと思いますか?」という質問をされた。これによって、政治的な思想を調べたわけです。
- 最後に、24のニュースの見出しを見せるのですが、そのうちの12は、①で見たもので、残りの12個が、フェイクニュースと正しいニュースが半々で含まれていました。そのうえで、各見出しについて、「これを見たことがあるか?」「正しい主張だと思うか?」という質問をされた。
その結果、分かったことを簡単にまとめると以下のようになります。
- 一度事前に情報に触れていただけでも、十分に、その情報を正しいと評価する確率が高くなった。
- ①の段階で、「サードパーティによって管理されています」と表示されていた時には、フェイクニュースを正しい情報を思いやすくなった。
- 自身の政治的思想と矛盾していた時にも同様。
- この記事を見たことがないと答えたときにも同様の傾向がみられた。
ということで、フェイクニュースでも正しいニュースでも、一度事前に見ているだけで正しい情報だと評価しやすくなったわけですね。
また、信頼できる機関のお墨付きっていう情報が添えてあったり、自分の思想との相違によっても変わってくるというのが面白いです。
ちなみに、使われたフェイクニュースの見出しとしては、"Election Night: Hillary Was Drunk, Got Physical With Mook and Podesta”とか、"Pennsylvania Federal Court Grants Legal Authority To REMOVE TRUMP After Russian Meddling"とかだったらしい。
実験3
この実験では、実験2とほとんど同じ形式で、事前に与えた情報による判断の変化が1週間後まで持続するかということを調べました。
その結果、1週間たってもフェイクニュースを正しいニュースと評価する傾向が確認され、真実性の錯誤効果の強さがうかがえます。
また、1週間後にさらに同じような情報に触れさせることで、よりその情報を信じやすくなる傾向もみられました。
まとめ
以上から、一度事前に情報に触れておくだけでも、正確性の判断に影響を及ぼし、その影響は長期にも及びうるということがわかりました。
また、繰り返し情報に触れることによる効果もやはり確認されました。
見出しだけでもその内容から受ける影響の大きさには少し驚きました。
研究チームもコメントしている通り、フェイクニュースに関して、「サードパーティに管理されています」とか、自身の思想との相違がある場合などには、より真実性の錯誤効果の影響を受けやすいので注意が必要と言えるでしょう。
選挙とかに関する偽の情報以外にも、一般に多くの誤った情報が蔓延る世の中ですが、第三者とか、信頼できる機関が介入しているとの記載があったり、自分とは違った考え方の情報に関しては、その情報を信じやすい傾向があるのではないかということが考えられます。
なので、そのような状況に陥ったときには、ぜひ、バイアスの解除に意識を向けられるといいと思います。
先行研究でも、知識がある人でも、繰り返しによる真実性の錯誤効果の影響を受けることは避けられないということが主張されていますし、バイアス一般に言えることでもありましょうが、真実性の錯誤効果は、誰もが陥る可能性のあるものです。
自分は大丈夫、と考えてしまうのが人間ですので、積極的に、バイアスの影響には気を配ることが必要でしょう。
参考になれば幸いです。それではまた。