これまで学生のスマホ利用による学業成績の低下は多くの研究でも調べられてきて、日本でも、学校内ではスマホ禁止!みたいな極端なことまでしている学校もまだあるようです。
ですが、調査のモデルを変えれば別にそこまでスマホの弊害はないんじゃない?と思わせるデータが出ておりました。
2020年のコペンハーゲン大学の研究では、470人の大学生を対象に、2年間、スマホ利用と学業成績の追跡調査を行いました。(R)
その結果は、単純にGPAとスマホの利用時間を調べたら、以下のようなことがわかりました。
- 授業中、授業外のいずれも、スマホの使用時間は、GPAの低下と相関がみられた。
- 特に、授業中のスマホの使用は、授業外での使用に比べて1.5倍程度、GPAの低下との相関が大きく確認された。
ってことで、ここまではいつも通りなんですが、ちょっと工夫して、固定効果モデルという方法の一種を用いたところ、全然違う結果が得られました。
このモデルでは、学生とコースの特徴を固定して計算しました。
学生の特徴というのは、例えば、
- 性別
- 年齢
- 知性
- パーソナリティ特性
- 衝動性
- 長期的な不安感
- 受けてきた教育
みたいな感じで、コースの特徴というのは、
- 教師の質
- 教材の難易度
- 授業の規模
- 教室のレイアウト
のようなものです。
つまり、長期間追跡していれば当然授業も難しくなるし、人間の性格やメンタルの状態も変わってくるわけですから、そこをそのままにするのではなくて、しっかり調整したうえで考えないと、スマホそのものが悪者なのかわからんよね、という話です。
その結果、
- 固定効果モデルにおいてもやはりスマホの使用時間と、GPAの低下との相関はなお存在した。
- もっとも、1標準偏差当たり、0.045ポイントしかGPAが低下していなかった。(学生のバックグラウンド変数のみ調整した場合(今までは大体これ)は、-0.129, 何も調整しなかった場合には-0.231)
- 95%信頼区間を見ると、GPAの低下との相関は、0をまたいでいた。
ということで、授業中ですら、スマホを使っていても、それだけからGPAが低下するとは言い切れないということがわかりました。
この結果に対して研究チームは、
この違いは、成績と授業中のスマホの利用は、生徒のバックグラウンドの違いからは計れない生徒の性格や、コースの特性による環境要因が複雑にかかわっている。
とコメントしていて、今までの研究をより一歩踏み込んだ形になっているかと思います。
セルフコントロール能力の違いとかがその原因として考えられるのではないかとも主張されています。
もちろん受験生等に向かってスマホを見る時間を積極的に増やそうとは言いませんし、授業中に堂々とスマホをいじっていい理由にはなりません。
しかし、今まで思っていたよりかはスマホの利用による弊害は小さいかもしれないということがわかりましたので、特に学習に関する調べものとか、有用なことに使う分には積極的に使っていくべきなのかなと思います。
また、学校側としてもスマホの使用を一律禁止、没収とか極端なことをするよりも、生徒の集中力が上がるように、教室のレイアウトや、授業内容、資料等を工夫するのがいいのかなと思います。
特に日本なんかでは、学校が科学的な知見を採用するのがとても遅かったりするので、教育者は教育に関する科学をもっと調べないのかなーなんて個人的には思ったりしますが。(学校という制度上外に関心が向かないのはわかりますが…。)
参考になれば幸いです。それではまた。
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