「性格って変わるの?」っていうのは昔からの有名なテーマで,今でも議論が続いています.今のところは,
- 人の性格はある程度遺伝で決まっている.
- 若いうちに形成された性格はそう変わらない.
- 人生のいくつかのポイントでは特定の性格は変化するかも.
みたいな感じだと思います.3つ目のポイントの例としては,「若めの大人の誠実性や協調性が増加し,神経症傾向が減少する」みたいな傾向があったりします.
そうは性格は変わらないとはいっても,変わる可能性は十分あって,特に社会人なりたて,みたいな人は特に,環境の変化等が相まって性格が変わったりするかもよってことですな.
で,誠実性が高いと収入が高い!みたいな研究は複数あったりしますが,じゃあ,「性格が変化したらキャリアにどう影響するの?」みたいなことが気になります.今日はそんなところを調べた研究(R)についてみてみたいと思います.
これはヒューストン大学等の研究で,2つのサンプルから,「若者のビッグファイブの変化が,キャリアにどう影響するか?」を調べたものになっています.
まずは2つのサンプルの概略を並べておくと,
- アイスランドの義務教育を終えた若者485人(調査開始時の平均年齢15.3歳)を対象に,性格とキャリアに関するいくつかの事項に関する質問に回答してもらう.同様の調査を2,6,8,11年後にも行う.
- アイスランドの若者1290人(調査開始時の年齢は14歳から21歳)を対象に,1と同様の調査を行い,6,12年後に追跡調査を行う.
みたいな感じ.対象者は性別はもちろん,教育レベルとか都会に住んでいるかどうかとかを含めた幅広い人が含まれていて,いい感じじゃないでしょうか.
要するに,いろんな若者の性格の変化を10年規模で調べて,それが若いうちのキャリアにどう影響してくるのかを調べたわけですね.
ちなみにここでいう「性格」とはおなじみの「ビッグファイブ」のこと.現在最も正確性が高いといわれる性格分類であります.
で,まずは平均的なビッグファイブのスコアの変化を並べますと,
- サンプル1では,協調性,開放性,誠実性の順にスコアが増加していて,外向性のスコアは減少していた.
- サンプル2では,協調性,誠実性,開放性,感情の安定性の順にスコアが増加していて,外向性のスコアが減少していた.
みたいになっています.協調性のスコアなんかはそれぞれd=0.67, 0.73くらい上がっていて,結構変わるもんだなーとか思いました.
そのうえで,大きな結果を見てみると,
- 感情の安定性のスコアが上昇(神経症傾向のスコアが減少)すると,収入やキャリアの満足度が向上していた.
- 誠実性が向上すると,キャリアの満足度が向上していた.
- 外向性が向上すると,キャリアの満足度と仕事への満足度が向上していた.
みたいな感じ.もともとのビッグファイブもそうだけど,ビッグファイブのスコアが「どのくらい変化したか」も結構大きくキャリア面での成功に寄与していることがわかります.
で,さらに細かいポイントを見ていくと,
- 学歴は,性格の変化よりスコアそれ自体が大きく影響していて,順に誠実性,感情の安定性,協調性が高いと,学歴も高い傾向があった.
- 仕事の名声の点でも性格特性それ自体のほうが大きく影響していて,順に感情の安定性,誠実性が高い方が名声を獲得している可能性が高かった.
- 収入の面では,性格の変化の影響が強く,順に感情の安定性,外向性,誠実性のスコアの向上と収入はポジティブな相関がみられた.
- キャリアへの満足度の面では,順に外向性,感情の安定性,誠実性のスコアの向上とポジティブな相関がみられた.
- 仕事への満足度の面では,特に外向性のスコアの向上とポジティブな相関がみられた.
みたいな感じ.外向性,誠実性,感情の安定性を磨ければ,結構いい感じの影響が期待できる!ってことですな.スコアの「変化」を見ているので,もともとスコアが低くて,努力して平均程度にまで伸ばした,みたいな場合でも十分な期待ができるということです.これはうれしいですね.
逆に開放性とか協調性は頑張って変えても殊キャリアの面ではあまり影響ないってことで,とりあえず優先順位は低そうです.
てことで若者が特定の性格を磨けば,キャリアにいい影響がみられるということがわかりました.
全体を通して振り返ってみると,学歴とかステータスみたいに客観的な指標は性格特性のスコアそれ自体で決まってしまうけれど,主観的に日々の仕事やキャリアをどう評価するか,みたいな点については後天的に十分変えられそうな感じです.
これに対して研究チーム曰く,
この結果は,性格の発達が,若者が早いうちのキャリアをどう評価するか,という点で重要な役割を果たしていることを示唆している.
若い大人が性格由来のスキルを磨くのを支援する政策や教育は,個人が本来持っている成果を十分に発揮するために重大な影響を及ぼすかもしれない.
一方,子供や思春期の子供を対象にした介入は,学業での成功や仕事での早期の役職の獲得といった,客観的によりよい結果を出すことに寄与するかもしれない.
とのこと.大きくなってからは,性格による客観的な成果は大きく変えられなくても,考え方を変えることで,本来持っているポテンシャルを発揮できるようになるかもしれない,ということですな.
さらにこんなことも最後にコメントしています.
若い人は,今の性格が固定されたものではない,性格は時間をかけて徐々に変えていくことができる,ということを知ることで,メリットを享受することができる.
てことで,人生の特定のタイミングで性格は変わることもあるし,自分自身の努力,工夫によって変えることもできるんだぜってことですね.「遺伝的にネガティブな性格だから…」とか,「どうせ人と話すのは苦手な人間だから…」とか考えがちの人には非常に希望のある話じゃないでしょうか.
また,「もう俺おっさんなんだけど...…」みたいな人も,誠実性を磨いてみたり,神経症傾向を改善することはポジティブな効果が十分期待できると思うので,「もう間に合わない…」とか悲観的になる必要はないかと思います.
んで,じゃあ具体的にどうやって性格を変えればいいの?みたいなところが気になるわけですが,今日は長くなってしまったので,需要があればまた今度.
参考になれば幸いです.質問やコメントなどあればTwitterなどでご連絡いただけると嬉しいです.それではっ!
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