「リアルよりもオンラインで出会った方がいいんじゃない?」みたいなことをよく聞くようになった昨今.マッチングアプリなら,幅広いネットワークから相手を選べるし,じっくり考えられるから,結局いい出会いになるんじゃない?っていう考え方ですね.
このような「リアルよりもマッチングアプリのほうが有用説」は過去の調査でも結構確認されておりまして,
- オンラインでパートナーと出会った方が離婚や別居につながる可能性が低い
- 結婚生活に満足している人が多い
- オンラインで出会ったカップルのほうが結婚につながる可能性が高い
といったことが報告されていたりします.
もっとも,マッチングアプリが普及しても結婚率は下がり,独り身の人が増え続けている傾向は変わってなかったりもします.
実際,パートナーの選択肢が多くなるほど,「誰とも付き合わない」という選択をする人が増えるし,パートナーへの満足度も減少する,といったことも確認されています.シーナ・アイエンガー教授の「ジャム実験」と同じですな.
そんなところで新しい研究(R)では,「マッチングアプリでは,パートナーの選択肢が増えると出会いが減るんじゃない?」みたいなことを調べてくれていて面白かったです.
これはティルブルグ大学の調査で,マッチングアプリ利用者には「リジェクション・マインドセット」が存在しているのでは?って仮説を検証しておりました.
「リジェクション・マインドセット」ってのは,「オンライン上で際限なく潜在的なパートナー候補に触れることで,より悲観的になり,相手をパートナーとして受け付けなくなる」ということです.つまり,「もっと理想に近い相手がいるんじゃないか?」って思って詮索を続けるうちに,パートナーに求めるハードルが上がってしまって当初ならパートナー候補だったはずの人を候補から除外してしまうようになるのでは?ってことですな.
リアルな出会いはある程度偶発的なものだけど,オンラインなら大量の選択肢から選べる結果,パートナーを作りやすくなるはず!だけど,リジェクション・マインドセットによって逆にパートナーを作れなくなってしまう,というパラドックスが形成されてしまっているのでは?と考えたわけです.
そんなわけで研究チームは3つの実験を通して,マッチングアプリにおける「リジェクション・マインドセット」の存在を検証しました.その方法はざっくりいうと,
- 18歳~30歳の参加者に,パートナー候補として異性の写真を提示する.
- それぞれの候補に対して,「パートナーとしてアリか?ナシか?」を評価してもらう.
- 候補の数や提示された順番によってどんな違いが出るかを調べる.
みたいな感じです.そしてさらに,「相手の写真への満足度」「どのくらいの人とマッチできると思うか?」みたいなポイントを調べて,リジェクション・マインドセットのメカニズムについても検討しておりました.
で,その結果はというと,
- 概して,提示された写真が増えるほど,「ナシ」と判断する傾向が実験を通して確認された(つまり,1枚目の人よりも2枚目,2枚目の人よりも3枚目の人を「アリ」と評価する確率が低くなっていた).
- 性別,状況設定,労働者か学生かなどによって程度の差こそあったが,この傾向は一貫して確認された.
- また,提示された写真の数よりも,「ナシ」と判断した数のほうが,次の人を「ナシ」と判断する確率を強く予測していた.
- 見た写真が増えるほど,相手の写真の魅力度や自分がどのくらい好かれるか,という評価が減少した.
みたいな感じ.一番最初に見た人が一番パートナーとして「アリ」と評価される確率が一番高くて,その後はどんどん「ナシ」と評価される確率が高くなり続ける,っていうわけです.
その傾向は一貫して確認されたものの,特に,実際にその相手と会うことを想定してもらった場合には,大体30人くらいの写真を見ると,その後の人に対しては「ナシ」と評価する確率が急激に上昇したらしい.
そしてこのような傾向は,多くの写真を提示されることで,相手の写真への満足度が低下し,自分への自信が低下することが原因として考えられる,っていうわけですね.
研究チーム曰く,
すべての実験を通して,アクセプトする確率は,マッチングアプリの利用全体において減少した.
この主な発見は,人々は検索を制限(もしくは少なくとも一回の検索においてリジェクトする回数を制限)することで,恩恵を得られるかもしれないことを示唆している.
とのこと.マッチングアプリを使うときには,時間なり人数なりをあらかじめ制限しておくことによって,「ピンと来る人が見つからない!」っていう体験を減らせるかもよ,ってことですな.
そんな感じで工夫しておかないと,運営側だけハッピーで,利用者側としてはお金と時間を無駄にすることになってしまうかもしれないんですねぇ.使いすぎると逆に付き合える機会が減ってしまうというのは恐ろしい話です.
さらに研究チームは,
この結果はまた,写真が表示される順番がその人の恋愛の成功の可能性を決定することを示している.
ともコメントしておりまして,自分の写真やプロフィールが検索結果やおすすめの上位に表示されるように工夫することで,相手から高く評価してもらえるかもしれない,と.
マッチングアプリを使う際には写真やプロフィールを見てもらった時により魅力的に判断されるように,と意識してプロフィール等を作成するのが一般的でしょうが,その前に,より上位に表示されるような工夫をすることがもっと重要なのかもしれない,というわけです.これはマッチングアプリを使う上であまり指摘されないポイントなんじゃないでしょうか.
というわけで,効率的に自分に合ったパートナーを見つけるためのツールであるはずのマッチングアプリですが,使い込みすぎると逆にパートナーが見つかりづらくなるかも,という話でした.確かにマッチングアプリをずっとやっているくせに全然パートナーが見つからない,という人ってたまにいますよね.
マッチングアプリについてはまだまだこれから研究が行われていくかと思いますが,とりあえず,使い方には注意しといたほうがいいかもしれません.最初に紹介したように,相手を決められさえすれば,いい関係を築けるかもしれないけど,使い方を間違えるとそもそも相手を決められないって事態に陥る可能性があるってことで.
参考になれば幸いです.質問やコメントなどありましたらTwitterやお問い合わせのページからご連絡いただけると嬉しいです.
それではっ!