運動が身体的な健康だけでなく、脳機能の向上についてもポジティブな影響をもたらすことはもはや常識となっていますが、今回は改めて、対象を子供、若者に絞って、運動と実行機能の関係について調べたメタ分析についてメモ。
実行機能というのは、前頭前野に基盤があるとされる、思考とか行動の制御システムのことですね。
2019年の上海交通大学の研究(R)では、6歳から17歳の子供、若者の長期的な運動と、その実行機能について分析が行われました。
具体的には過去の19の研究から、計5038人分のデータをまとめていて、
- 10件はRCTで、9件がクラスターRCT。
- 11件がヨーロッパ、5件がアメリカ、2件がアジア、1件がオセアニアのデータ。
- 4320人が子供(6歳から12歳)、718人が若者(13歳から17歳)を対象。
- 16件が抑制制御、9件がワーキングメモリ、6件が認知的柔軟性を調べたもの。
- 3件が90分以上のセッションの運動を、10件が週に5セッション以上の運動を、8件が24週間以上にわたって調査したもの。
って感じで、複数のパターンで運動の効果を調べたみたいです。全体的に研究の質も高めでいいんじゃないでしょうか。
では、ざっくりした結論を以下にまとめると、
- 長期的な運動は、概して、実行機能の向上と正の相関がみられた(SMD=0.20)。
- 抑制制御との観点でも、同様に、正の相関みられた(SMD=0.26)。
- BMIの高い人のほうが、より大きく、運動による実行機能の向上がみられた。
- 年齢や運動の期間による差異は見られなかった。
- 放課後の活動や、課外活動による運動、カリキュラム上の運動は全体的に実行機能の向上と相関していた(それぞれ、SMD=0.21, 0.39)のに対して、組織的な運動(学問的に行う身体的活動のようなもの)との間には相関がみられなかった(SMD=0.02)。
- 90分以下のセッションの運動は、実行機能の向上と相関がみられた(SMD=0.24)のに対して、90分以上では見られなかった(SMD=0.05)。
みたいになります。、やっぱり運動をすることで全体的に実行機能の向上に寄与するんだなーって感じです。
基本的には体育でも遊びでもなんでもいいから元気に体を動かすことが大事、特に太り気味の人は積極的に取り組むべき、と言えるのではないでしょうか。
2014年のシステマティックレビューなんかでは、長期の運動は実行機能と関係がみられなかったりしていたのですが、その時には、長期の運動に関して5件の研究しか含まれていなかったりするので、RCTを多く含む今回のレビューのほうが信頼性は高そうな気がします。
BMIの数値が高いの人のほうが運動によって実行機能が大きく向上した点については、先行研究で、「太りすぎている子供は、実行機能が乏しい」という結果が出ていて、運動によって一般的なレベル、そしてプラスアルファまで実行機能が向上したことで、より大きな伸びを示したのではないかと考えられています。
また、組織的な運動で、実行機能の向上がみられなかった理由としては、
- その他のスポーツ等に比べて、人とのかかわりが少なく、集団的な要素が小さい。
- 教室内等狭いところで行われることから、運動の強度が小さくなりがち。
ということが推測されています。やっぱのびのび体を動かすのが大事なのかもしれないですね。
ってことで、基本的には運動が子供たちの実行機能の向上に寄与するといえそうですが、例によってこのメタ分析にも難点がありまして、
- 幅広い認知的タスクが含まれている。
- 因果関係はよくわからん。
- 年齢の幅が広く、年齢の違いによる実行機能の向上の大きさがはっきりしない。
- どこまで高いレベルの実行機能にまで影響がみられるかはわからない。
- ほかに変数があるかもしれない。
みたいになってて、当たり前と言えば当たり前のような問題もありますが、当然ながらこのメタ分析で全部が完璧にはっきりして、「とにかく運動さえしていれば実行機能が向上する!」とは言えないわけです。
とはいえ、運動は、身体的健康はもちろん、脳機能の向上に寄与することも多くの研究で示されていますから、スマホゲーム、テレビゲームもいいですが、多少は、体をうんと動かしてみる時間を設けるのも大事なのかなと思います。
最近だと、家の中で楽しく体を動かせるゲームとかもいろいろ出ていますから、それらを試してみるのもいいと思います。
特にこれからの季節は寒くて外に出づらいですから意識して外出してみるのもいいと思います。もちろん、子供と一緒に大人の皆さんも。
参考になれば幸いです。それではまた。
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