情報過多社会における「確実性」という名の猛毒|『The Certainty Illusion』を読んで考えたこと

「確実性の錯覚(The Certainty Illusion)」って本を読みました。著者のティモシー・コールフィールドはアルバータ大の教授で、健康法や科学政策の専門家だそうな。

現代は、毎日463エクサバイト(DVD2億枚分!)ものデータが爆誕してる超情報過多時代なんて言われていますが、殊みんな健康や社会問題に対しては「結局何が正解なの?」って、かつてないほど混乱して不安になってるじゃないですか。本書はこの「情報にアクセスできるのに、不確実性ばかりが増していく」っていうバグった現状の深層に着目した一冊でして、控えめに言って名著でございました。

  • 世間では「科学離れ」とか言われがちだが、データを見ると実は一般市民の90%が「科学」を信頼している。でも、問題はまさにそこ。みんなが科学を信じてるからこそ、悪意ある連中や利益至上主義の市場が「科学の皮」を被って偽情報を売りつけてくる。著者はこれを「サイエンスプロイテーション(科学の搾取)」と呼んでいる
  • (個人的にはスタートアップのピッチとか新規事業の文脈でもこれを痛感するのですが、「幹細胞」とか「マイクロバイオーム」とか「量子」みたいなバズワードを散りばめただけの、エビデンスすっかスカなプロダクトがいかに多いことか。日々ラボで細胞培養したりデータ取ったりしてる身からすると、そういう「科学っぽい言葉」でお手軽に確実性を演出しようとするマーケティングには、正直反吐が出そうになりますね。科学は本来プロセスなのに、ただの「ブランド」として消費されちゃってるわけです)
  • 人間が持つ「正しいことをしたい」というピュアな欲求を利用する「善意の錯覚」もかなり厄介。「オーガニック」とか「クリーン」って言葉を見ると、思考停止して「これは善だ!」って飛びついちゃう現象(ヘルス・ヘイロー)。さらにタチが悪いのが、研究者自身も「社会を良くしたい」って正義感から、無意識にデータを自分の都合のいいように歪めちゃう「ホワイトハット・バイアス」があるとも指摘されている。金儲けのための捏造より、「自分は世界を救う正しいことをしてる」っていう自己正当化が入る分、こっちの方が圧倒的に重症化しやすい。正義感は、科学的客観性を曇らせる一番ヤバい劇薬なのかもしれない
  • 極めつけは「意見の錯覚」。ロンドンの裏庭にあるゴミだらけの物置小屋を、TripAdvisorの偽レビューだけで「ロンドンNo.1の高級レストラン」に仕立て上げたウーバ・バトラーの事件が紹介されてるが、これまさに現代のホラー。実体なんかなくても、みんなが「星5つ」をつけてりゃそれが「真実」になってしまう。アルゴリズムと群集心理が客観的現実をあっさり書き換える「合意現実」の世界では、専門家の知見すら、素人の大量の「1つ星レビュー」の暴力で簡単に潰せちゃうというのは、危機感しかない
  • なんで人間はこんなにポンコツなのかというと、結局「自分だけはフェイクニュースを見抜ける」って勘違いしてる「ダニング=クルーガー効果」のせい。自信満々なヤツほど一番カモられやすい。SNSのアルゴリズムは人間の「恐怖」や「怒り」を煽るのが一番エンゲージメントを稼げるようにできてるから、怒りで脳の思考力が低下した我々に、白黒ハッキリした陰謀論とか「体制から批判されてる俺こそが真実を知っている!」みたいなガリレオ・ギャンビットをぶつけてくるというわけ
  • じゃあどうやってこのカオスから身を守るの?ってところで、著者は「知的謙虚さ(Intellectual humility)」を持つことを最強の解毒剤として挙げている。「自分が間違っているかもしれない」と常に認め、新しい証拠が出たら喜んで自分の意見を変える柔軟性。「俺は分かってる」ってマウントを取りたがる態度こそが、一番ポンコツで「確実性の錯覚」に陥りやすいダサい状態なんだと肝に銘じたいところ

この本を読んで強く思ったのは、ビジネスでもキャリアでも、「絶対の確実性」を安易に提供してくる人間やサービスは、基本疑ってかかったほうがいいなってことです。

コンサルの現場でも投資の世界でも、みんな「絶対に成功する戦略」とか「確実に伸びる市場」っていう、わかりやすくて綺麗なストーリー(=確実性)を求めがちです。しかし、現実の社会実装も最先端の科学研究も、そんなに単純なわけがないんですよね。複雑で、泥臭くて、ノイズだらけで、「やってみないとわからない」変数だらけの世界なわけです。

だからこそ、不安に耐えきれずに安直な「白黒」をつけようとするんじゃなく、「今はまだ不確実だよね」っていう居心地の悪い状態を、そのまま耐え抜く力。お手軽なスローガンに逃げ込まず、ゴツゴツした事実と向き合い続ける知的なタフさこそが、今の情報空間を生き抜く最強の武器になるんじゃないかなと。

不確実性を恐れず、自分の限界に謙虚になる。なかなか難しいですが、意識していきたいスタンスですね。気になる方はぜひ読んでみてくださいー。

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