COVID-19

自然との触れ合いでパンデミックのメンタルダメージを相殺できるか?問題

Covid-19は肉体だけでなくメンタルにもダメージを及ぼすぞ!っていうのはご存じの通り。「自分や大事な人が感染するかも!」って心配のほか、経済的な不安定性や失業、孤立、スクリーンタイムの増加、運動量の減少などがその原因として考えられていたりします。

一方、自然がメンタルを健全に保ってくれる!っていうのも多くの研究で示されている事実。いわゆる「バイオフィリア仮説」ってやつですね。

そんなところで新しい研究(R)では、「自然との触れ合いがパンデミック期間のメンタルダメージのバッファーになるか?」ってなところを調べてくれておりました。


これはコロラド大学ボルダー校による研究で、彼らが何をやったのかといいますと、

  1. 2019年11月から2021年1月までの期間中、デンバーに住む903人を対象に、ストレス(PSS-4)、抑うつ(CES-D-10)、不安(MMPI-2)のスコアを調べる
  2. 全員の主観的・客観的な自然との触れ合いの状況をチェック
  3. さらに、家計の経済状況、収入、生活必需品の不足、他人との距離、Covid-19と診断された体験、Covid-19の症状の経験、親密な関係の人がCovid-19と診断された経験、収集していたCovid-19関連の情報の量といったCovid-19とメンタルに関連のありそうな要素についても調査を行ったうえで、自然との触合い状況とメンタルの関連を分析

みたいになってます。実は、「自然が近所にどのくらいあると思うか?」といった質問への回答と実際に近所にある自然の量はそこまで強く相関しないのがふつうなんで、ここのところをきっちり分けて調べてくれているのはありがたいですね。ちなみに主観的な自然に対する質問では、「近所に自然がどれだけあるか」「家から見えるか」「どれだけアクセスしやすいか」「どの程度利用するか」「質はどうか」という5つの項目で構成されてました。また、客観的な自然との距離に関しては、航空衛星画像が利用されております。

そこでどんな傾向が見られたかというと、こんな感じです。

  • パンデミックのいずれのフェーズにおいても、Covid前の期間と比べると抑うつ、ストレスのスコアが有意に高かった。不安スコアに関してはfall waveの期間に高くなっていた
  • Covid-19に伴う収入減少、自分や周囲のCovid-19症状の体験、情報収集に費やす時間の長さは、ストレス、抑うつ、不安のいずれのスコアとも正に相関していた。中でもトイレットペーパーや食料等の入手困難の要素が最も強く関連していた。ただし、Covid-19と診断された経験はどの精神衛生上の問題とも有意な相関がみられなかった
  • 主観的、客観的ないずれの要素でも、緑とのつながりの強さはストレス、抑うつ、不安のスコア低下と相関していた。が、社会人口統計学的な要素や上述のパンデミックストレッサーを調整したところ、その相関のほとんどは有意でなくなった。
  • それでも、自然の中で過ごす時間の長さと不安・抑うつ、客観的な(衛星画像で自宅から300m/ 500m以内にあると確認できた)自然の量と不安低下の間にはなお有意な関連が維持された
  • また、自然の質と不安の間にも関連が確認できた(つまり、緑が多くても雑草だらけで交通量の多い道路に面している場合には十分なメリットを得られない可能性がある)
  • 諸要素を調整すると、ストレスと自然の各要素との間に有意な関連が認められるものはなかった

ということで、パンデミックは精神衛生上の問題を引き起こす一方、そんな強力なストレス下でも「自然」は強力な保護効果を発揮してくれる可能性が高いのではないか、と。

もちろん、これはあくまで横断的な観察研究でしかないので、これらの関係を断言することはできないですけど、ここまで多くの要素を分析に含めた研究は初めてだし、大きなショック下でも自然が強大なパワーを発揮するってことはパンデミック以前から確認されているんで、ある程度は信用していいんじゃないかと。

「所得が多くて良質な医療へのアクセスがいい人が緑にアクセスできるんじゃない?」って疑問に対しても、

  • 社会人口学的な要素のみを調整すると、「自然の量」「家から見えること」「自然の中で過ごす時間」「自然の質」がよくうつ、不安の低下と有意に関連していた
  • 同様に、自然の中で過ごす時間とストレス低下との間にも有意な関連が見られた

ってことが確認されているのも面白いところです。

ちなみに、パンデミック期間に行われた別の研究では、

  • 外に出なくても、屋内に観葉植物を置くだけでも精神衛生上のメリットが得られる
  • バーチャルな自然環境を体験するだけでも精神衛生上の問題が改善し、孤独感も和らぐ

ってなことも報告されていたんですけど、今回の研究を見る限り、メンタル面で自然から最大の利益を享受するためには、家に観葉植物を置いたり、自然の多い地域に住んだりするだけでなく、実際に屋外の質のいい自然に多くアクセスすることが大事なのかもなーとかおもいましたね。

参考になれば幸いです。それではまたっ!

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