こないだまで「2022年の目標達成率を底上げするにはどうすればいいんだろう?」みたいな話をしておりました。その中でいくつか「自制心が高いほうが目標達成率も上がりそう!」ってな趣旨のデータを紹介しましたね。
自制心が持つ光と影
実際、複数の研究で自制心のメリットってのは確認されておりまして、例えば、
- 自制心が高い人は感情コントロールがうまく、衝動に振り回されず、自分の長期的な価値観・目標に合致した行動を選択できる
- セルフコントロール能力が高い人の方が数年・数十年後の健康、社会経済的なステータスが高く、犯罪を犯す確率が低い傾向がある
- ほかにも、学業での成績の高さや良好な人間関係のスキルとも関連する
- もっと広い視点で見ても、セルフコントロール能力が高い人が多い地域ほど犯罪率が低い
ってなことが報告されておりまして、メディアとかでも「自制心万歳!」みたいな取り上げ方をされたり、子供たちのセルフコントロール能力を高めるトレーニングを授業に組み込もう!みたいな動きもあったりするわけです。
ただし、そうはいっても、何事も過ぎたるは猶及ばざるが如しで、むやみに「自制心を高めてやるぞ!」って思ってると逆に目の前の作業のパフォーマンスが下がってしまったりするんですよ。
例えば、2017年のフロリダ州立大学などの研究(R)では、
- セルフコントロール能力を高めたいと思っている人ほど、頭を使うタスクのパフォーマンスが低かった
- 因果を詳細に調べてみたら、セルフコントロール能力を高めたいと思うと、自己効力感(「自分はこのタスクをうまくこなせるはずだ」)が低くなり、その結果実際には自制心がうまく働かなくなっていた
ってことが確認されていたりするんですよ。つまり、「自制心を高めたい!」って思いすぎていると、(高すぎる)理想の自分と現実の自分のギャップに打ちのめされて、「ダメだ…自分にはできっこない……」って思い込んでしまうわけです。
しかも、現実を直視するのをさけるために、今の自分には難しそうなタスクには手を付けることすらしなくなってしまったりするんですよ。たとえ着手はしたとしても、結果を見ることを恐れてフィードバックをしないせいで成長にも次回のモチベーションにもつながらないわけっすね。
要するに、
- 長期的にみれば、セルフコントロール能力が高いほうがいろんな面でいいことがある
- けれど、皮肉なことに、自制心を高めるには自制心を高めようとしすぎない方がよさそう
ってことになります。
今の自分がどのくらい自制心を高めたいと思っているか?を知る8問
そんなわけで、「じゃあどうやって自制心を高めればいいんだ?」って話はあとでするとして、まずは今の自分がどのくらい「自制心を高めたいと思っているのか?」を測るためのテストを実施してみましょう。
これは、DSCS(The Desire for Self-Control Scale)と呼ばれるテストで、以下の8つの文章についてどう思うかを、
- 1(全く自分に当てはまらない)~5(完全に自分に当てはまる)
の5点満点で採点してみて下さい。以下は日本人を対象に調整されたものじゃないので、それなりの誤差は出るかと思いますが、自制心に対する探求が行きすぎちゃいないか?を知るよすがにはなるんじゃないかと。
- もっと自分を律することができるようになりたい
- 仕事にもっと集中できるようになりたい
- ストレスのかかる場面で、もっと自分の反応をコントロールできたらと思う
- 誘惑に負けないようにしたい
- 嫌なことが頭に浮かんだら、うまくその思考を抑えられるようになりたい
- もっと嫌な習慣を変える力があればいいなと思う
- 自分の気持ちをもっとコントロールしたい
- 目標に向かってもっと粘り強く行動できるようになりたい
そしたら、すべての点数を合計したうえで、8で割って平均点を出してみて下さい。
この点数より高かったらアウト!みたいな明確な基準はないんですけど、一応複数の研究を見てみると平均点は3.5~4.0点くらい。
もし3点以下なら、セルフコントロールを高めたい!って気持ちはそこまで強くないんで、おそらく実際に必要となる場面でセルフコントロール能力を発揮できる可能性は高め。
一方4点を超えてくると、セルフコントロールに関するポテンシャルを十分発揮できていないかもしれません。
自制心を高めたいと考えずに自制心を高める4つの方法
そうはいっても、自制心の高さが長期的に多くのメリットにつながる可能性は高めなんで、「自制心を下げるぞ!」って思うのは愚策。てなわけで以下では、「自制心を高めたい!って思わずに自制心を高めたい人」向けに実際にすすめられることが多いチップスを紹介しておきます。
- 自制心を高めたい!って思ったら、自制心が高まった理想の自分をイメージする代わりに、具体的にどうすればいいのか?っていう行動策を考えるように意識する
- 取り組むべき課題に対して、その重要性や難易度を違った観点から再評価してみる
- マインドフルネスのトレーニングによって、そもそも自分の欲求に気づけるように訓練してみる
- 誘惑が襲ってきても絶対耐えるぞ!っていう風に意志力で立ち向かうのではなく、「どうやったら誘惑をさけられるか?」「誘惑の前段階にあるトリガーって何だろう?」という思考で対抗する
結局、自制心を高めたい!ってのを第一義にしてしまうと、高すぎるハードルを設定しがちなんで、今自分の自制心が鍛えてられるってことに気づかないくらい小さなステップに分けて実践していくのが大事なわけですな。
あとは定期的にこの8つの質問に答えてみて、自制心を高めることに対する躍起が収まってきたか?ってのをチェックしてみるのがいいでしょう。
界隈では自制心は「砂」に喩えられることが多いんですけど、あがけばあがくほど砂は手から零れ落ちていくように、自制心も無理に鍛えようとせず、どうやったら風を防いで砂が飛ばないようにするか?ってなことを考えたほうがいいんじゃないでしょうかってことでひとつ。