
「マインドセット」って言葉は、最近よく聞きますな。私のnoteやNewsletterでも定期的に取り上げてまして、少し前の「失敗の履歴書」のエントリでも触れてましたね。
で、最近、このテーマをがっつり掘り下げたヴィニータ・バンサルさんって方の『Upgrade Your Mindset』って本とその元ネタになった研究を調べておりました。バンサルさんは心理学者ではなくて、インドのトップIT企業でキャリアを積んだテクノロジーリーダーなんだそうな。この経歴が、彼女のアプローチをめちゃくちゃ実践的で面白いものにしてくれておりました。
世界は2種類の人でできている:「固定的」か「成長」か
まずは確認ですが、皆さんご存じスタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエック博士によれば、人間の根本的な信念体系は、たった2つのマインドセットに分けられると説明されます。
- 固定的マインドセット(Fixed Mindset)
知性や才能は「生まれつき決まっている」と信じる考え方。石に刻まれたみたいに、もう変わらないと思っている。だから、このタイプの人たちは常に自分の能力を「証明」しようと必死になる。「自分は賢い」と思われたいし、失敗して「才能がない」とバレるのが怖いから、難しい挑戦は避ける傾向がある。努力は「才能がない証拠」だとすら思ってる節がある - 成長マインドセット(Growth Mindset)
知性や才能は「努力や学習で伸ばせる」と信じる考え方。能力を筋肉みたいに捉えている感じ。だから、挑戦は自分を成長させるための「経験値稼ぎ」だと考える。失敗は「終わり」じゃなくて、分析して次に活かすための「貴重なデータ」。努力こそが、才能を開花させるための道筋だと考えている
どっちが楽で、どっちが伸びるかは一目瞭然でしょう。固定的マインドセットの人は「自分には才能がないから」と挑戦をやめて成長が止まり、結果として「やっぱり才能は固定的だった」と自分の信念を証明してしまう。まさに悪夢のセルフ・フィードバック・ループ。なかなか耳が痛い話ですけど、私たちの周りにある「努力はダサい」的な空気ってのは、完全にこの固定的マインドセットの罠なんですよね。
人生のOSを書き換える、超具体的な「アプリ」
ではどうやって「固定的」から「成長」へOSを書き換えるんだ?ってのが、バンサルさんの著書の本領。彼女の本は、精神論じゃなくて、エンジニアらしく超具体的な「実装マニュアル」になってるのが面白い。いくつかピックアップしてみるとこんな感じです。
- 魔法の言葉、「まだ(Yet)」を使いこなす
何かにつまずいた時、「これができない」と言うのをやめて、「“まだ”これができない」と言い換える。たったこれだけで、脳の認識が「永続的な欠陥(詰み)」から「学習途上の一時的な状態(攻略中)」へとガラッと変わる - 自分の「固定的マインドセット・トリガー」を特定する
自分がいつ、どんな状況で「固定的おじさん」に変身してしまうのかを自覚する。特定の人物に何か言われた時? 新しいプロジェクトを任された時? 自分の内なる声が「おいおい、お前にできるわけないだろ」と囁く瞬間をキャッチする。まずは敵を知ることから。これを意識するだけで、無意識に発動してた自動防御モードを止められるようになる - 「プロセス」をとにかく褒める
これは特に、部下や子供を持つ人に有効。ドゥエック先生の研究で最も重要な示唆の一つは、「人を褒めるな、プロセスを褒めろ」ってのは有名。「君は天才だ!」は最悪の褒め言葉。なぜなら、それは「次も天才でいなきゃ」という呪いをかける行為だから。褒めるべきは、「その粘り強さ、いいね!」「その戦略の立て方、賢いね!」といった、本人の努力や工夫。結果じゃなくて、そこに至るまでの道のりを評価するべき - 失敗を「資本」に変える
成長マインドセットの持ち主は、失敗を「データ」として扱う。失敗したら、「なぜ失敗した?」「何が機能しなかった?」「次はどうする?」と分析して、次の計画に活かす。失敗は人格の否定じゃなくて、戦略をアップグレードするための燃料と考える。バンサルさんの本には、これを実践するためのワークシートが19個も付いておりまして、まさに「行動変容」にコミットした一冊かと
ということで、この本(と理論)が教えてくれるのは、結局のところ「私たちは自分自身の人生の設計者になれる」という力強いメッセージなんじゃないかと思いましたね。
私たちが「才能の壁」だと思っているものの正体は、実は「固定的マインドセット」という名の“思い込み”に過ぎないのかもしれない、と。それは乗り越えるべき物理的な壁じゃなくて、書き換え可能な心の中のコードみたいなもんということですな。
そう考えると、今まで「自分には無理だ」と諦めていたことも、見方を変えれば、ただの「“まだ”クリアしてないクエスト」に過ぎないということで。
正直そこまで目新しい知見はなかったんですが、成長マインドセットの概念を日常的な実践に落とし込むヒントを与えてくれるような一冊でございました。
ではまた次回!