「孤独がよくない!」ってのは最近よく聞く話。実際、孤独感が高いと、
- うつや不安障害等の精神疾患を引き起こす
- 睡眠の質が低下する
- 頭が悪くなる
- 早死にのリスクが上がる
みたいなことが報告されておりまして、精神的にも肉体的にも支障をきたしてしまって何かと大変なんですよね。
進化論的に考えれば、孤独感を感じられるおかげで社会的なつながりを求めるようになって、その結果として厳しい自然の中で生き残ってこれたんで、孤独感ってのは非常に重要な感覚だったわけです。
しかし、孤独感を感じているのに十分な社会的な関係を築くことができなければ、炎症や免疫反応の異常を引き起こして心身にダメージを与えるほか、他人を脅威に感じたり自分勝手な行動をしがちになったりしてしまう、みたいに対人関係にもネガティブな影響を及ぼしてしまうんですよね。
そんなところで新しい研究(R)では、「孤独感は他人への信頼感にどう影響するの?」「孤独感によって脳の活動にはどんな違いがあるの?」みたいなことを調べてくれていて面白かったです。
孤独感が強いとさらに人間関係が悪化するんじゃない?
これはボン大学などの研究で、どんな内容だったかといいますと、
- オンライン調査によって、孤独感が強い人42人と孤独感が弱い人40人を集める
- 参加者には、相手を信頼すると利益がアップするゲームにトライしてもらう
- ゲーム中の行動のほか、fMRIをつかって脳の活動を測定する
って感じ。「相手が裏切らないと信じればより多くの金銭的メリットがもらえる」というおなじみのタスクにトライしてもらって、孤独感の強さによってどんな違いが出るのか?ってのを調べたわけです。
その結果、どんなことが分かったかといいますと、
- 孤独感が強い人は、相手と資金をシェアする額が少なかった。つまり、相手のことをあまり信用しなかった
- また、孤独感の強い人は、前部島皮質等信頼関係の形成にかかわる脳領域の活動レベルが低く、他の脳領域との接続も少なかった
- この結果は、性別や抑うつ・不安レベル、幼少期の虐待経験、睡眠の質等を調整してもなお確認された
だったそう。島皮質ってのは、心拍等自分の体の信号を察知して解釈したり、相手の表情や反応、気分を解釈したりするところ。つまり、孤独感が強いと相手のことをどのくらい信頼するか?を判断する領域の活性が低かったらしい。
抑うつレベルとかを調整してもこの傾向は維持されたってことで、孤独感自体が重要なファクターになっていることがお判りいただけるかと思います。
孤独感と会話における反応の違い
さらに研究チームは、各参加者に「宝くじが当たったら何をしますか?」みたいなポジティブな内容の簡単な会話をしてもらって、その前後の気分やホルモンの変化を測定しました。
その結果は、
- 孤独感が弱い人に比べて、孤独感が強い人は、会話後のポジティブな感情の上がり具合が小さかったが、皮膚コンダクタンスレベルや心拍数に関しては両グループに有意差はなかった。つまり、両グループの違いは、刺激に対する反応、解釈の違いによるものと考えられる
- 孤独感が強い人は、会話後のオキシトシン分泌量も少なかった
- 会話相手との空間的な距離に関しても、孤独感が強い人は孤独感が弱い人に比べて約10㎝離れていた
って感じだったそう。要するに、孤独感が強い人は相手のことを無意識に警戒するし、人間関係においてポジティブな感情を感じにくいみたい。
孤独感のスパイラルとそれを抜け出す方法
研究チーム曰く、
慢性的な孤独感が他人に対する信頼感の低下と関連していることが、すべての課題で明らかになった。
これは、他人との交流があまりポジティブではないと感じることを意味し、他人とのつながりが困難になり、孤独のスパイラルを悪化させることにつながる。
とのこと。つまり、ざっくり言えば、
- 孤独感が募る
- 他人を信頼せず、警戒するようになる
- 人間関係による恩恵を十分に受けられない
- 人とかかわるのが難しく感じるようになる
- さらに孤独になる
みたいなサイクルを永遠回っちゃうんだ、と。その結果、肉体的にも精神的にも脳にも悪い影響が蓄積していくみたい。なかなか難儀ですなぁ。
このサイクルを断ち切るのは容易ではないわけですが、研究チームは、
- まずは自分に影響を与えている人に気づくべし
っていうアドバイスをしております。自分の思考や行動に影響を与えている人の存在を認識することで、「皆がみんな信頼できないわけじゃない」って実感できて、その結果、殻から少し抜け出せるかもしれないよー、と。
新型コロナの影響もあって孤独感が募っている人も多いと思いますんで、深刻な問題につながる前に、「自分の行動や考え方は誰の影響を受けているか?」ってのはちょっと意識しておくといいかもです。
参考になれば幸いです。質問やコメントなどありましたらTwitterやお問い合わせのページからご連絡いただけると嬉しいです。
それではっ!