"email urgency bias"「メール緊急性バイアス」
「メールの返信をそんなに焦る必要はないぜ!」ってな研究(R)が出ておりました。論文のタイトルもまさにそのままで、"You don’t need to answer right away!"となっております。
余談ですが、特に英語圏で最近この論文をシェアしている人が多いなーと思ったら、みんな大好きアダムグラントせんせーが紹介してた論文みたいです。
話を戻すと、テクノロジーが発展した現代においては、いつでもどこでもメッセージのやり取りができて非常に便利になった一方、「相手をあまり待たせてはいけない」っていう不安も常に付きまとってくるわけです。
家庭用PCやスマホが一般的ではなかった昔のように、「今は会社にいないから返信ができなくてもしょうがない」とはなりませんからね。
実際のデータを見てみても、
- 51%の人が、休日であっても、平日の勤務時間外であってもメールを返信すると回答した
- 労働者のうち76%の人が1時間以内にメールを返信する。さらに、32%の人は15分以内にメールを返信する
みたいな報告もあったりします。勤務時間内、時間外問わず、ここまでメールに気を張っていたらストレスがたまるし、仕事の生産性も下がってしまうのは目に見えることでしょう。
そんななかで、今回の研究では、「メールの受信者は、送り手が期待してる返信のスピードを過剰評価してるんじゃない?」ってのを調べております。
例えば、仕事が終わったあとの夜にメールが送られてきたとして、送り手としては「明日中に返信してもらえればいい」と思ってても、受け手としては、「送り手は、こちらが今日中に返信することを望んでいるんじゃないのか?」って想定しちゃうんじゃないの?っていうこと。
研究チームは、この差のことを"email urgency bias"(ここでは仮に「メール緊急性バイアス」としましょう)と呼んでいて、この差が大きくなることでメールに関するストレスが強くなるんじゃないのか、って考えたわけです。
「メールをいつまでに返信すべきか?」の認識は送り手と受け手で大きな差がある
この研究は、ロンドンビジネススクールなどによって行われたもので、総勢4,004人を対象に、8つの実験を行ったもの。すべてをまとめるのは大変なので、ざっと調査内容だけピックアップすると、
- 「メール緊急性バイアス」は存在するのか?
- それはストレスや幸福度に関係あるのか?
- 勤務時間外か勤務時間内かで違いはあるか?
- メールの内容が緊急を要するものかそうでないものかによって違いはあるか?
ってなところを調べて、さらに具体的な対処法まで提示してくれております。
それでわかった結果をダーッと並べてみると、こんな感じ。
- 最初のメールの受信者は、送信者が実際に期待しているよりも速くメールを返信することを期待していると考えた。つまり、「メール緊急性バイアス」を確認した
- メール緊急性バイアスが強い人ほど、ストレスを強く感じ、幸福度が低くなる傾向があった
- 休日等の勤務時間外だけでなく、勤務時間内においても「メール緊急性バイアス」は確認された
- メールの内容の緊急性の度合いによって、送信者と受信者の間の非対称性は影響を受けなかった。つまり、緊急性の高いメールでも低いメールでも、「メール緊急性バイアス」が見られた
- メールの返信に関して、最初のメールの送信者(返信メールの受信者)は、最初のメールの受信者のストレスを実際より過小評価していた
だったそう。要するに、勤務時間かどうか、メールの返信が緊急を要するかどうかを問わず、返信する側は必要以上に迅速な返信の必要性があると勘違いしてしまい、その結果、ストレスの向上、幸福度の低下につながってしまう、と。
このような事態がひどくなれば、返信者は必要以上にメールに脳のリソースを奪われてしまうせいで仕事の生産性が低下し、お互いにとって不利益となってしまうのは想像に難くないでしょう。
「メール緊急性バイアス」にはどう対処すればいいのか?
そこで、最後の実験では、「最初のメール中で、返信してほしい期限を添える」という単純な工夫によって「メール緊急性バイアス」を軽減できるのでは?ってのを調べております。つまり、「明日の午前中までに返信してもらえれば結構です」って一言書いておくってわけですね。
その結果は、
- 一言付け加えるだけで「メール緊急性バイアス」はほとんどなくなった!つまり、最初のメールの送信者が実際に期待している返信期限と、返信者が予想するその期限に差がなくなった
だったそう。まあ考えてみれば当たり前のような気もしますが、「今すぐ返信したほうがいいんじゃないかな…」って漠然とした不安感を解消できれば、ストレスも減って、全体的な仕事の生産性も挙げられると考えると、なかなかコスパのいい方法なんじゃないかと。
研究チーム曰く、
メールの送り手が暗黙の返信を期待するスピードを明示する方法はほかにもある。例えば、メールのフッターに「私の勤務時間はあなたの勤務時間とは異なる可能性がありますので、あなたの通常の勤務時間外の返信は期待していません」というように、期待を明確にすることができる。
また、送信者は、自分の都合のいい時間帯にメールを作成し、通常の勤務時間にのみ送信するように設定することもできる。
メールなどのデジタルコミュニケーションにおいて、小さく効率性の調整をテストすることで、組織はリモートワークのような多くの従業員が望んでいる職場のイノベーションが、従業員に害を与えるのではなく、むしろ助けになるようにするにはどうすればよいか、というより広い問題に取り組み始めることができる。
とのことで、従業員が勤務時間中には生産性高めつつ、勤務時間外には仕事から完全に離れられるような工夫を少しずつテストしてみるのがいいんじゃないか、と。
「上司からのメールにはいつ何時でも〇時間以内に返信しなければならない」みたいな暗黙のルールに縛られて、「柔軟性」等せっかくのメールの利点をストレス要因に変えてしまってはならないってわけですね。
終わりに
そんなわけで、「メール緊急性バイアス」のお話でした。まとめると、本当に緊急のメールならまだしも、人は緊急性のメールに対しても迅速な返信をしなければならないと考えてしまうということですね。
今後もまだしばらくは電子メールでメッセージをやり取りする時代が続きそうですから、この点は早いうちに意識・対策しておくといいかもしれないっすね。
私も特に海外の方にメールするときなんかは送る時間帯には注意していましたが、返信してほしい期限とかも書いておこうーとか思いました。
参考になれば幸いです。質問やコメントなどありましたらTwitterやお問い合わせのページからご連絡いただけると嬉しいです。
それではっ!