「年を取ると代謝が落ちる!」「そのせいで太りやすくなるのだ!」みたいな話(言い訳)は昔からありまして、米国なんかでは20代から30代にかけて代謝が低下することが肥満の蔓延につながっているのでは?という主張もあるらしい。
が、直近のScienceに出ていた文献(R)では、「別に60歳くらいまでは代謝は落ちない!」みたいな結論になっていて勉強になりました。
「年を取ると代謝が落ちる」は間違いだった!?
これは、デューク大学などの研究で、調査の概要は以下のような感じ。
- 世界29か国の生後8日から95歳までの6,421人分のデータを集める
- 「二重標識水法」によって参加者の総エネルギー消費量をチェック
- さらに、間接法のカロリーメーターによって基礎エネルギー消費量もチェック
「二重標識水法」ってのは、簡単に言えば、水に含まれる酸素と水素の排出経路の違いを利用してエネルギー消費量を算定する方法で、対象者を拘束せずに通常の生活におけるエネルギー消費量をチェックできるのが利点。
ちなみに、第一著者のHerman Pontzer博士は、デューク大学の進化人類学准教授で、代謝に関する新刊『Burn』の著者。この本は食事や運動だけでなく、生き方まで見直したくなる一冊。おすすめ。
話を戻して、調査の結果どんなことがわかったかと言いますと、
- FFM(エネルギー消費に関係ない脂肪を体重から除いた量)が高いほど、総エネルギー消費量、基礎エネルギー消費量ともに多かった
そして、エネルギー消費量の変化は年齢別に大きく4つにわけられまして、FFMや筋肉量等を調整したところ、以下のようなことがわかりました。
~1歳
- 生まれてから1年間は総エネルギー消費量、基礎エネルギー消費量ともに急速に増加していた
- 具体的には、総エネルギー消費量は年率84.7%増加し、0.7歳で生涯のエネルギー消費量のピークに達した
- 基礎エネルギー消費量も同様の傾向がみられた
- 生後9か月から15か月の間には、大人より50%多くエネルギーを消費していた
1~20歳
- 20歳までは、FFMの増加に伴ってエネルギー消費量は増加していたが、諸要素を調整すればリニアに減少していた
- 具体的には、総エネルギー消費量は年率2.8%で減少し、この傾向は20.5歳まで続いた
- 同様の傾向は基礎エネルギー消費量でも確認された
- 性別によって減少率に違いは見られなかった
20~60歳
- 20~60歳の間では、総エネルギー消費量、基礎エネルギー消費量、FFMのいずれもがほとんど一定だった
- この傾向は、妊娠期間中でも変わらず確認された
- 消費量が一定の期間は総エネルギー消費量では63.0歳まで、基礎エネルギー消費量では46.5歳まで続いた(が、後者の減少率は小さい)
60歳~
- 60歳以降は総エネルギー消費量、基礎エネルギー消費量ともにリニアに減少していた
- が、これはFFMや体脂肪の減少のみによるものではなかった
- 具体的には、総エネルギー消費量は年率0.7%減少し、90歳時には、20~60歳の時より26%低い消費量だった
といった感じ。
まとめ
要するに、まとめると、
- 赤ちゃんは大人よりも50%速くエネルギーを消費し、1歳くらいで代謝がピークに達する
- その後、20歳ごろまで年に3%ずつ代謝が減少する
- 60歳ごろまではそのまま変わらない
- 60歳を超えたあたりから再び年率1%以下で減少し始める
ということで、俗説に反して大人になると代謝が落ちるわけではないし、妊娠や更年期障害によって代謝率に影響が出るわけでもないらしい。
さらに、身体的な活動や組織別の代謝率も検討されておりまして、この点について研究チームは、
身体的な活動や組織別の代謝はどちらも総エネルギー、各エネルギー消費量に生涯にわたって影響している。
若いうちに組織別の代謝が上昇するのは体の成長・発達に関連しているのだろう。逆に、年を取ってからエネルギー消費量が減少するのは、臓器レベルの代謝の低下が関係しているのかもしれない。
とのこと。つまり、60歳を過ぎてから体の維持のために必要となるエネルギーがようやく変化し始めるのやもしれぬ、と。
さらに、以上の結果を踏まえて、
これらの変化は、代謝率に関連した病気の力学、薬の働き、治療、プロセスの調査に対する潜在的なターゲットを提供してくれている。
ともコメントしておられます。
乳児に対する栄養の重要性のほか、代謝が異なる年齢に対する薬の処方や、加齢に伴う疾患の研究にも影響をもたらすかもしれない、というわけですな。
まあ私のような一般人にとっては、
- 少なくとも60歳くらいまでは代謝は低下しないし、食事や運動を見直せば十分体重のコントロールとかは可能
くらいは頭に入れておいていただくといいんじゃないっすかね。
参考になれば幸いです。質問やコメントなどありましたらTwitterやコメント欄などでご連絡いただけると嬉しいです。
それではっ!