「ジェスチャーって思考を補助する働きがあるよねー」ってのは直感的にもよくわかる話.例えば,
- 手を動かしながら考えると物事の理解や記憶の定着が促進される
- ジェスチャーを使うと話がうまくなり,頭がよさそうに見える
- クリエイティビティがアップする
- 集中力や論理的な思考力が向上する
- 対象に対する興味や好感度がアップする
といった報告があったりします.
そんなところで,新しい研究(R)では,「ジェスチャーで,『喉元まで出かかっているのに!』状態の解決に役立つんじゃない?」ってのを調べてくれておりました.「あれだよ!あれ!なんて名前だっけ!」みたいなよくある現象からの脱出ジェスチャーが役立つかも?ってことですね.
このポイントは以前から指摘されていたりしたんですが,この研究では,実際に効果のある状況とかそのメカニズムをより深く追究したわけです.
これは,2つの実験で構成されたウェルズリー大学などの調査でして,最初の実験のデザインは,
- 90人の学部生を集めて,写真に写った対象の名前をあげてもらう.
- この時参加者を以下の3つのグループに分ける.(1)制限なしあり,(2)ジェスチャー禁止,(3)首の動き禁止
- タスクの途中で,「思い出せそうなんだけど思い出せない!」っていうときはその都度報告してもらう.
- グループごとのスコア等を検討する.
みたいになってます.物の名前を思い出すときにジェスチャーを使える場合とそうでない場合とで思い出せる量にどのくらい差が出るのか?ってのを調べたわけです.
その結果がどうだったかと言いますと,
- ジェスチャーの有無によって全体的な思い出せる量に差はなかった.
- もっとも,ジェスチャーを禁止されたグループでは,「思い出せそうで思い出せない」状態の時に思い出せる確率が有意に低かった.
- ジェスチャーを許された参加者を見ても,「思い出せそうで思い出せない」状態の時,具体的なジェスチャーを行った場合の方が名前を高い確率で思い出せていた.
だったそう.「具体的なジェスチャー」っていうのは,対象にマッチしたジェスチャーのことで,単に机をコツコツ叩く,みたいな動きをしても効果はなかったらしい.データのばらつきは少々気になりましたが,手を自由に動かすことが「喉元まで出かかっているのに!」「あれだよ!なんだっけ?」状態から脱出に役立つかもしれないわけですね.
二つ目の実験の内容もほとんど同じで,
- 34人の学生を集めて,写真に写った対象の名前をあげてもらう.
- それぞれの人に(1)ジェスチャーあり,(2)ジェスチャー禁止の2パターンでタスクに取り組んでもらう.
- 最後に参加者の短期記憶を調べる.
みたいな感じで,短期記憶のレベルによってジェスチャーの「思い出せそうなのに」問題の解決への影響が違うんじゃない?ってのを調べたんだそう.
その結果は,
- 言語的な短期記憶力が低い人は,ジェスチャーが禁止されると「思い出せそうなのに」問題の解決率が低下した.
- ジェスチャーが許された場合には,短期記憶力と「思い出せそうなのに」問題の解決率に関係は見られなかった.
- 空間的な短期記憶との間には関係性は見られなかった.
みたいな感じだったそう.これらの結果について研究チーム曰く,
語彙の想起におけるジェスチャー禁止の効果は極めて明確で,「思い出せそうなのに思い出せない」という場合と同様に,単語を思い出すのが難しく,かつ主に言語的な短期記憶力が低い人において見られるものである.
(中略)
我々の研究におけるジェスチャーによる語彙の想起に対する効果は,おそらくジェスチャーが「思い出せそうで思い出せない」状態における認知的負荷の軽減に寄与していることによる.
このメカニズムは必ずしも語彙の想起に限定されるものではなく,自分が難しいと思うあらゆるタスクにおいて適応できるかもしれない.
とのこと.難しいタスクに取り組むときに,ジェスチャーをすると脳内の負担が軽減し,利用可能な脳のリソースが拡大して,その結果パフォーマンスが向上するんだ,と.あらゆるタスクに適用可能性があるってのはうれしいポイントですね.
というわけで,「ジェスチャーを増やせば成績が必ず上がる!」とは言えませんが,
- 自然に沸き起こるジェスチャーを抑えると脳のパフォーマンスが下がっちゃうかも!
- 難しい問題やタスクに取り掛かるときはジェスチャーを取り入れてみるといいかも!
ってなポイントは押さえておくといいかもしれません.さらに,ジェスチャーをするにしても,なるべく内容に合っているジェスチャーをした方がメリットが大きかった,ってことは他の研究でも確認されてますんで,そこのところも意識していただくといいんじゃないでしょうか.
参考になれば幸いです.質問やコメントなどありましたらTwitterやお問い合わせのページからご連絡いただけると嬉しいです.
それではっ!