「大気汚染が身体に悪い!」なんてのはもはや言うまでもないですが,PM2.5の健康影響としては,ざっと挙げるだけでも,
- 喘息とか気管支炎とかの呼吸器系疾患
- 肺がん等のガン
- 循環器系疾患
みたいなのがありましょう.とはいえ,「PM2.5のうちのどの成分が長期的に身体に悪影響を及ぼしているのか?」みたいなポイントはまだまだ分かっていなかったりします.
そんな中新しいデータ(R)は,「PM2.5のうちでがんを引き起こしているのってBCなんじゃない?」ってことを調べてくれていて有用でした.
BCっていうのは,ブラックカーボンの略で,エンジンやストーブ,工場とかで不完全燃焼によって排出される黒色炭素のこと.地球温暖化にもかかわっているといわれていたりするやつです.BCの健康への影響に関しては,WHOも心血管疾患とか心肺の死亡リスクを高めるかもって主張していたりするんですよ.
これは,フランス国立保健医学研究所(Inserm)などの研究で,フランスの20,625人を対象に,26年間にわたってBCの曝露量とがんの発症リスクの関係を調べたコホート研究となっております.
なんせBCの長期的な健康影響を調べた研究はまだ少ないんで非常にありがたいっすね.
まずは基本的な情報を見ておくと,
- 参加者は調査開始時で35歳から50歳.
- 7割以上が男性.
- 期間中に4,354件のがんが発症,うち410件が肺がん.
- PM2.5, BCの濃度の中央値はそれぞれ21.6 μg/m3, 1.9 10-5/m.
といった感じ.それで調査の結果として何がわかったかと言いますと,
- BCへの曝露が増えると,がん全体のリスクが増加する(ハザード比1.15程度).
- この関係は,性別や年齢,喫煙,主要道路からの距離等の要素を調整してもなお有意だった.
- PM2.5への曝露量とがん全体のリスクは有意な関係にあった(ハザード比1.20)だったのに対して,NO2との関係では有意性は確認されなかった.
- 肺がんとの関係でも,BCへの曝露量は有意な関係がみられた(ハザード比1.20程度).
- PM2.5, NO2への曝露と肺がんとの間は有意な関係は見られなかった.
というわけで,がんリスクとの関係でBCは結構重大な影響を及ぼしていることがわかるかと思います.
研究チーム曰く,
BCは,少なくとも部分的にはPM2.5全体の健康への影響を説明することができるだろうし,そしてそれはおそらくNO2からは独立したものだろう.
とのこと.PM2.5というとNO2が結構有名株ですが,それとは別個独立な形でBCが身体への影響を及ぼしているのかも,と.
さらに,データの解析の方法を変えるとまた面白いことがわかりまして,10年単位で分析したときよりも,2年単位での時のほうでは,データのばらつきが大きく,肺がんへの影響は非常に小さかったらしい.チームはこれに対して,
2年では肺がんの潜伏期間としては短すぎたのかもしれない.
とコメントしておりまして,今のBCへの曝露量は少なくとも2年以上先の肺がんのリスクをあげるかも,と.なかなか恐ろしい話ですね.
BCががんを引き起こすメカニズムはよくわかりませんが,酸化ストレスや炎症,DNAメチル化といったおなじみのやつらの引き金になるんでしょうか.
というわけで,日本でもある程度の改善は進んでいるとはいえ,将来の自分のためにPM2.5にも対応しているマスクでもつけて気を付けておきたいところです.
参考になれば幸いです.質問やコメントなどありましたらTwitterやコメント欄などでご連絡いただけると嬉しいです.
それではっ!