セルフコントロール能力っていうのは,目の前の誘惑にあらがって,今自分が最もやるべきことに意識を集中させる力のことです.「セルフコントロール能力が高いほど人生有利になる!」みたいなデータはたくさんありまして,例えば,セルフコントロール能力が高いほど,
- 学業成績が高い!
- 安定した人間関係を持ってる!
- 収入が高い!
- 心身共に健康!
- 幸福度が高い!
みたいなことが確認されていたりします.
ただし,「じゃあセルフコントロール能力ってどうやって鍛えればいいの?」って問題ははっきりした解が出ておりません.セルフコントロール能力を鍛える技法自体はいろいろ提唱はされていて,有名どころでいうと,例えば,
- 日常のタスクで利き手じゃない方の手を使う
- 姿勢を正すように意識する
- 手を強く握ってみる
みたいなのがあったりします.セルフコントロール能力は後天的なトレーニングで高められる能力ではありそうなんだけど,具体的にどんなトレーニングが最適化はわからんというわけですな.
さらに,別にセルフコントロール能力のための特別な訓練,トレーニングをしなくても,教育だったり別の介入によっても十分高まるってデータもあったりするんですよ.なんで,特別なトレーニングが必要なのか,最適なのか,って点は疑問視されていたりするんですよね.
で,ザールラント大学などの論文(R)では,そこら辺の問題を調べてくれておりました.これは,過去に行われたセルフコントロール能力の上達に関する手法を調べた研究33件をまとめたメタ分析で,利き手じゃない手を使うとか,セルフコントロール能力向上のための訓練がどの程度役に立つのかを調べてくれました.
先にその結論を見てみますと,
- セルフコントロール能力向上のための特別な訓練が意味があるかは微妙!
というちょっと残念な感じになっておりました.さらにちょっと詳しめに見てみますと,
- 全体的な効果量は中程度から低程度(効果量0.30, 95%CI: 0.17-0.42)
- トレーニングのタイプ別の効果量を見てみると,
- 我慢するタスク:0.21(-0.02-0.44)
- 利き手じゃない手を使う:0.42(0.25-0.59)
- 手を強く握る:0.37
- 姿勢を正す:0.23
- 食事制限:-0.01
- 訓練によって,セルフコントロール能力の強さよりも持続時間のほうが強く鍛えられていた
- 女性よりも男性のほうが効果が大きかった
みたいな感じ.効果量0.30ってのは別に意味のない数字じゃないですが,実際,教育とか別の介入によって効果量0.50とかを記録しているデータもあって,そこらへんを考慮すると,別にわざわざトレーニングする必要はないのかも?とも思えます.
さらに,小規模研究の影響だったり,出版バイアスの可能性も指摘されていて,そこら辺を考慮するとさらに効果量が低くなってしまっていたりもします.
ということで,セルフコントロール能力向上のためのトレーニングは全く意味がない!とは言えませんが,日々の運動やら仕事,勉強やらを誠実に行っていれば自然とセルフコントロール能力も向上するのかもしれませんね.
もちろん,「歯磨きを利き手じゃない手でやってみる」とかは別に格別労力を要するものでもないんで,やってみるも全然ありだとは思いますが.
参考になれば幸いです.質問やコメントなどありましたらTwitterなどでご連絡いただけると嬉しいです.
それではっ!
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