ヨガは、日本でも美容効果やダイエット効果、メンタルの改善、リラックス等を期待して多くの世代で注目されているものだと思います。今回はヨガの呼吸の持つ、感情コントロールの観点について考えてみたいと思います。
「プラーナーヤーマ(pranayama)」 という言葉は最近科学の界隈でもよく聞くようになりました。
特にメンタルのコントロールという観点からの研究を多く見るように思います。プラーナーヤーマというのはヨガの際に使われる、呼吸をコントロールするテクニックで、息を吸って、止めて、吐くという行為に意識を集中させるものです。
これには精神的、肉体的にポジティブな効果があると主張されていて、心血管系の改善の効果まで主張されていたりします。今回はその中で精神的な部分についてみてみたいと思います。
2020年の論文の中で行われた実験のデザインは以下の通り。
- プラーナーヤーマをやったことがない若い健康な人30人(平均年齢は25歳)を対象にしたRCT。
- 参加者のうち半数は、週に3回、監督者の下で30分のプラーナーヤーマを行い、かつ週に2回、家でプラーナーヤーマを行う。これを4週間続ける。残りの半数は、同じ条件で、クロスワードとか関係ないことをやってもらう。
- その介入の前後で、両グループのメンタルの状態を測定し、さらに脳の状態をfMRIでチェックする。
プラーナーヤーマを行うことで、メンタルの状態と脳がどのように変化するのかを調べたわけですね。瞑想とか呼吸法の実験ではありがちなことなのですが、あまりこれまではfMRIを使って脳の状態を調べるといった踏み込んだことはしていなかったりするので、参考になります。
その結果は以下の通り。
- プラーナーヤーマを行ったグループは、そうでないグループに比べて、心配の気持ちとかネガティブな気持ちがかなり減少していた。
- さらに、プラーナーヤーマを行ったグループは、fMRIで見た結果、偏桃体をはじめとする、感情をつかさどる脳の分野に変化がみられた。
ということで、プラーナーヤーマを行うことによって、イライラしづらくなったり、必要以上にネガティブな感情を抱きにくくなったわけですね。
研究者も以下のようにコメントしています。
偏桃体は辺縁系の一部であって、ネガティブな感情と関係していると考えられている。(中略)私たちは偏桃体の活動の変化がネガティブな感情の変化と結びついていることを発見した。
辺縁系というのは、脳の中心部にあって、感情とか行動をつかさどると考えられている場所です。偏桃体の変化が大きく見られ、ネガティブな感情が改善したことから、辺縁系の中でも偏桃体がネガティブな感情と強く結びついているのかもしれないということですね。
今回の結果について、メカニズムははっきりしておりません。もっとも、詳細は続く研究に委ねるとしても、プラーナーヤーマがネガティブな感情を制御し、ポジティブな効果をもたらすことが脳内のネットワークの観点から明らかにしたのは非常に重要といえるでしょう、
今回の研究のどこまでを実践すればいいのか、どこまで拡張してよいのかは明らかではありません。別に今回の実験では呼吸法を試しただけなので、実際にヨガのポーズをとれば効果はどうなるのか、別の呼吸法、瞑想ではどうなのか、などわからないことはたくさんあります。
しかし、瞑想や呼吸法には集中力を向上させたりとか、様々な効果が他の研究によっても明らかになっておりますので、試してみる価値はあると思います。今回の実験では1回30分の呼吸法でしたが、5分、10分、と自分ができるところから呼吸に目を向けるとか、何か瞑想やヨガのようなものをやってみるのもいいと思います。
人間は、何かしないよりも何かしている方を好むという研究があったりしますが、ちょっとした時間ができたときには、スマートフォンに手を伸ばす前にただ呼吸に目を向けてみる、みたいなことを続けていると1か月後にはいつのまにか強いメンタルや高い集中力なんかが獲得できているかもしれません。
ぜひ参考にしてみてください。
それではまた。
references
- Morgana M. Novaes et al. "Effects of Yoga Respiratory Practice (Bhastrika pranayama) on Anxiety, Affect, and Brain Functional Connectivity and Activity: A Randomized Controlled Trial" (2020)