メンタル

腸内細菌の多様性はうつの重症度と密接に関連する

近年、腸内細菌叢が「腸-脳軸」を介して人間の脳機能や行動に影響を与えることが明らかになり、精神障害の発生や進行に重要な役割を果たしていることが示唆されています。特に、うつ病では腸内細菌叢の乱れがその潜在的な原因の一つであると考えられており、多くの研究で対照者と比較してうつ病患者の腸内細菌叢に特徴的な違いが見られることが報告されています 。しかし、これまでのほとんどの研究では16S rRNA遺伝子シーケンシング法を用いており、種レベルや遺伝子レベルでの解析は限られていました。また、うつ病患者の重症度と腸内細菌叢との関係については十分に検討されていませんでした。

そこで、新しい論文では、ショットガンメタゲノムシーケンシング法を用いて、138名のうつ病患者と155名の健康対照者から採取した便サンプルを解析しました。うつ病患者はハミルトンうつ尺度17項目(HAMD-17)に基づいて、軽度(n=24)、中等度(n=72)、重度(n=42)の3グループに分けられました。

メタゲノムシーケンシングとは、環境サンプルや体内に存在する複雑な微生物の混合物に存在するDNAまたはRNAを解析するために用いられるゲノム技術です。単一の生物の遺伝物質に焦点を当てるのではなく、微生物群集全体の遺伝物質の集合体を同時に解析することが可能であるという特徴を持っており、本研究では、参加者の腸内の微生物組成を評価することが目的であったため、便のサンプルに使用されました。

その結果、以下のような知見が得られました。

  • 腸内細菌叢の多様性はうつ病の重症度と密接に関連しており 、健康対照者よりも中等度や重度のうつ病患者では有意に低下していた
  • 対照者と比較して、中等度や重度のうつ病患者ではBacteroides属(特にBacteroides vulgatus) の存在量が有意に増加し 、Ruminococcus属(特にRuminococcus bromii)やEubacterium属(特にEubacterium rectale) の存在量が主に重度グループで減少していた
  • さらに、99種類の細菌種がうつ病患者の重症度に特異的に存在していることを同定した。例えば、Faecalibacterium prausnitziiやBifidobacterium adolescentisなどは対照者よりも軽度グループで有意に増加しており 、Coprococcus eutactusやRoseburia intestinalisなどは健康対照者よりも重度グループで有意に減少していた
  • また、37種類の細菌種からなるマーカーパネルを用いることで 、異なる重症度のうつ病患者を効果的に識別することができた

以上から、本論文では初めてショットガンメタゲノムシーケンシング法を用いて 、軽度から重度までのうつ病患者における腸内細菌叢の異なる存在パターンを明らかにしました。また、新たな診断や治療のターゲットとなり得る細菌種を同定しました。本研究のデザイン上、因果関係を明確にすることはできませんが、今後はこの知見をもとにして、より効果的かつパーソナライズ化された治療法を開発することが期待されます。

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