「興味のないフリ」って効果あるんすか?
恋愛の場面で、あえて興味のない振りをするとより惹かれてしまう!みたいな戦略があるじゃないですか。人間は届きそうで届かないものに惹かれるって考えがある一方で、むしろ関心を失わせてしまうって可能性もあって、結構判断が難しいわけです。
そこで18件の先行研究を含む最近のレビューでは、このような「難攻不落」の戦略の効果などをまとめてくれていてなかなか面白かったです。
まずはザックリ結論だけまとめてみるとこんな感じになります。
- たしかに、「ゲットしにくい存在」を演じることが効果的であると結論している報告はある
- しかし、それは相手に感じさせる「不確実性」と「困難さ」のレベルが最適である場合に限られる
要するに、相手が自分よりも社会的地位や魅力が高いと感じている場合や、相手が恋愛関係を求めている場合は、「ゲットされにくい」戦略は有効で、これは、この戦略が相手の好奇心や挑戦心を刺激し、自分の価値を高める効果があるからだと考えられているみたい。一方、相手が自分よりも社会的地位や魅力が低いと感じている場合や、相手が恋愛関係ではなく友人関係を求めている場合は、この戦略は逆効果。こういう状況で使っちゃうと相手の不快感や不信感を引き起こし、自分の価値に対する印象を下げてしまうらしい。つまり、この戦略は一概に良いものでも悪いものでもなく、使う人や使う場面によって効果が変わるってことですね。
もう一つ、重要なポイントとして、
- 「選択的である」っていう認識が、魅力を高める効果がある
って点がわかっているらしい。要するに、他の人にとっては手に入りにくいけど、自分にとっては手に入りやすい(と感じる)相手を好むんだとか。誰にとっても手に入りにくい相手や、誰にとっても手に入りやすい相手は、あまり好まれないわけですね。言われてみればよくわかるなぁ。
また、この戦略を使いがちな人ってどんな人なの?ってところにも触れられてまして、
- 「ゲットされにくい」戦略を使う人は、自分の自己評価が低く、自分に自信がない人であるケースが多い
- また、相手の評価や反応に敏感であり、相手から拒否されることを恐れている傾向がある
ってことがわかっているらしい。愛着スタイルも関連してて、自分の不安や不安定さを隠すための防衛的な手段なのかもしれないわけですね。
まあそうはいっても、いつ、どのようなタイミングで態度を変えるか、「ノー」というか「もしかしたら」と伝えるか、忙しさを装うか、高い基準があるようにふるまうか、、、みたいに細かく見れば様々な戦略が含まれてるんですべてを同一に扱うことはできないでしょうが、とりあえず現時点では「まあ気になる方は使ってみるのもありなんじゃないでしょうか」くらいのスタンスがちょうどいいですかね。
収入が少ないと体が痛む
他人よりも収入が少ないと、身体的に痛みを感じやすくなるのでは?みたいな論文が発表されてました。
ここでは、世界146カ国、約130万人の成人調査対象者の回答からなる、2009年から18年にかけて毎年実施されているWorld Gallup Poll(GWP)のデータを分析してまして、 回答者の所得額を算出し収入ランクを測定したうえで、調査前日に身体的な痛みを感じたかというアンケートへの回答と比較したんだそう。
ここでいう収入ランクってのは、自分の収入が社会全体や自分の参照グループ(同じ年齢や性別、職業など)の中でどの程度高いか低いかを表す指標のこと。このランクが低いと社会的に不平等であると感じたり、自己効力感や自尊心が低下したりする可能性があるってのは想像しやすいでしょうが、肉体的な「痛み」というアウトカムにも関連してくるんだろうか?ってところを調べてくれたわけっすね。
で、結果的にどんなことが分かったのかといいますと、
- 所得ランクは有意に身体的な痛みと関連しており、所得ランクが低いほど痛みを経験する可能性が高かった
- この関係は、その人が豊かな国に住んでいるか貧しい国に住んでいるかに関係なく、同程度に確認された
って感じだったらしい。要するに、客観的な資源的には十分足りていても、周りと比較して主観的に「自分は貧しい!」っていう感覚が肉体の痛みの経験と関わってくるってわけですね。
このような関連について研究チームは、以下の三つのメカニズムを提案してました。
- 第一に、収入ランクが低い人は、経済的な困難や資源の不足に直面することが多く、それが身体的な苦痛を引き起こす可能性がある。例えば、医療費や健康食品に十分なお金をかけられなかったり、安全で清潔な住環境に住めなかったりする場合など
- 第二に、収入のランクが低い人は、社会的な排除や孤立を経験することが多く、それが身体的な苦痛を引き起こす可能性がある。例えば、友人や家族との交流が少なかったり、社会的なサポートや承認を得られなかったりする場合など
- 第三に、収入ランクが低い人は、自分の価値や能力に対する否定的な評価や感情を抱くことが多く、それが身体的な苦痛を引き起こす可能性がある例えば、自分を劣っていると思ったり、恥ずかしく思ったりする場合など
ってことで、やはり収入の絶対的な額ではなく、相対的な位置によって影響されうるって点が重要でしょう。実際、論文中では国レベルや個人レベルで収入の不平等度が高いほど、収入のランクと痛みや不快感の関係が強くなる、みたいなことも示されてまして、「社会的比較」は思ってる以上に広範に影響してくるんだなーと思ったりしました。
加齢の進行は一方向ではない
ストレスで老ける!ってのはよく言われるところですけど、最新の研究では、
- たしかにストレスで生物学的な年齢は上がっちゃうけど、ストレスを取り除けばその年齢は「下がる(※維持じゃない)」かもだぞ!
って話になってて面白かったです。生物学的年齢ってのは、実際の年齢とは関わらず細胞や組織の老化の程度を表す指標で、DNAのメチル化などに基づいて測定されますな。DNAのメチル化とは、DNAの一部に特定の化学的な変化が起こることをいいまして、こいつが起こると遺伝子の発現や機能に影響が及ぶわけですね。
こちらは米国ハーバード大学医学部などの研究で、マウスおよび人間でストレスが生物学的年齢(DNAメチル化を使用)に与える影響を調べてます。まず動物実験では、若いマウスと老齢マウスを血管でつなぐ(ヘテロクロニック・パラビオーシス)という老化研究でおなじみの実験を行ってまして、
その結果、
- 若パラビオーシスにより若年マウスの生物学的年齢は上昇した(平均で4か月分くらい老化してた。老齢マウスの生物学的年齢は変化しなかった)
- しかし、若いマウスと老齢マウスを切り離すと、若いマウスの生物学的年齢は元の水準に戻るかそれ以下になっていた(パラビオーシスを受ける前より平均2か月若返っていた)
だったそうで、生物学的年齢は可逆的であることを示してます。次に、人間のストレスによる老化についても同様のことがいえるのかを調べてまして、
- 緊急手術の後、生物学的年齢の上昇は手術後数日でベースラインに戻っていた
- また、産後の回復についても、回復のスピードは個人によって異なるものの、同様の傾向が確認された
といったことがわかったんだそう。要するに、ストレスを受けると確かに体は老化の方向に傾いちゃうんだけど、それを乗り越えることにより「サクセスフルエイジング」の実現可能性を高められるのでは?というわけですね。
まあそもそもストレス自体を避けるのはかなり難しいですし、「いかにストレスをなくすか」というよりも「いかに乗り越え、回復するか」にフォーカスしたほうが分子レベルの老化という点でも有用ってのは頭に入れときたいとこですね。
とはいえ、根性でストレスに対処するのは容易ではないでしょうから、自分に合ったストレス対策法を常備しておくのはマスト。手前味噌で恐縮ですが、以前「ストレス対策大全」なんてシリーズを書いてたのでそちらも参考にしていただけるとよろしいのではないかと思います。