健康

細胞レベルで老化を遅らせる×2、週1、2回歩くだけでも早死にリスクはだいぶ下がる

運動で細胞レベルで老化を遅らせる

ご存じの通り、テロメアってのは、染色体の末端にある核タンパク質構造で、遺伝情報を保護し、時間とともに劣化するのを防ぐ役割を果たしてくれております。しかし、細胞分裂のたびにテロメアは自然に短くなりまして、テロメアが短くなると、細胞老化が進み、最終的には細胞死に至るんですな。

一般的に、テロメアの短縮は生物学的老化に関係していて、特に炎症や酸化ストレスを促進する要因によって加速されることが知られております。実際、肥満、喫煙、不健康な食生活、2型糖尿病、低社会経済水準などは、テロメア長の短さと関連することが報告されていたりします。また、テロメア長は健康寿命や死亡リスクともリニアに関連していて、なるだけ長いテロメアを保持しておきたいところ。

テロメア長と関連する要素は複数確認されておりますが、中でも影響が強そうなのが「運動」であります。今回は、米国成人の大規模で代表的なサンプル(NHANES 1999-2002)を用いて身体活動と白血球テロメア長(LTL)の関係を詳細に分析した研究を紹介しておきましょう。

本研究では、20歳から84歳までの成人約6,000人のデータから、自己申告に基づく62種類の身体活動の頻度、強度、持続時間を用いて身体活動レベルをMET-分/週で指標化し、みんなのテロメア長と比較しています。年齢や性別などの人口統計学的要因や喫煙や飲酒などのライフスタイル要因を統計的に調整したところ、

  • 身体活動レベルとテロメア長との間には有意な逆相関が見られた(F=8.3, P=0.0004)
  • 高い身体活動レベルを報告した人は、低~中程度の身体活動レベルだった人に比べてテロメア長が長かった
  • 具体的には、身体活動レベルの高い成人のテロメア長は、座りっぱなしの人に比べて9年、中程度の活動レベルの人に比べて7年に相当するくらい長かった
  • 意外なことに、運動量が少ない人や中程度の人と、座りっぱなしの人との間には、テロメアの長さに有意な差は見られなかった

ってな結果を得られたらしい。「高い身体活動レベル」ってのは、毎日30分(女性)~40分(男性)以上のランニングを週5日以上行っているくらいの運動量で、このくらいの運動を継続できていると生物学的な年齢が10年弱若い、というわけですな。これはすごい。。。

研究者は「40歳だからといって、生物学的に40歳というわけではありません」みたいな趣旨のコメントをしておりまして、改めて運動頑張ろう、と気が引き締まった次第でありました。

カロリー制限でアンチエイジング

ついでに食事と老化に関する最近のデータもチェックしておきましょう。こちらは最近Nature Aging誌に掲載された論文で、長期間のカロリー制限と生物学的な老化の関連を調べてくれております。

この試験では、肥満ではない220人の成人を、

  • 25%のカロリー制限
  • 自由摂取(摂取カロリーに制限を設けない)

のいずれかのグループに無作為に割り付けたうえで、カロリー制限が老化に関連する分子プロセスの一つであるDNAメチル化(DNAm)にどのような影響を与えるかを調べたんだそうな。

DNAmってのは、DNA分子上にメチル基(CH3)が付加される現象で、遺伝子の発現や機能に影響を与えるやつですな。DNAmは、環境や生活習慣などの外的要因によって変化し、老化や疾患のリスクと関連することが知られていたりします。

ちなみに、近年ではDNAmを用いて生物学的年齢を推定するさまざまなアルゴリズムが開発されておりまして、これらはエピジェネティッククロック(DNAmパターンから実際の年齢との差分を算出する)とかペースオブエイジング(DNAmパターンが時間とともにどれだけ変化するか)なんて呼ばれてたりします。

で、本試験では、カロリー制限グループと自由摂取グループの間で、6種類のエピジェネティッククロックやペースオブエイジングの変化を12ヶ月と24ヶ月後に比較したらしい。この手の研究にしてはかなり長期間ですな。

その結果としてどんなことが分かったかといいますと、

  • カロリー制限グループではDunedinPACEというペースオブエイジングが有意に遅くなっていた(12ヶ月後:d=0.3、24ヶ月後:d=0.2、p<0.01)。
  • 一方、エピジェネティッククロックによる生物学的年齢はカロリー制限群でも自由摂食群でも大きく違わず(p>0.08)、カロリー制限による効果は小さかった。ただし、一部のエピジェネティッククロックではカロリー制限群で生物学的年齢が増加する傾向も見られた(p>0.15)。

って感じ。ザックリ言ってしまえば、カロリー制限が老化の速度を減速させる傾向があったよーというわけですね。

ただ、実際のカロリー制限量は大体12%カロリーだった、みたいな結果も出ていまして、やはり25%もの制限を継続するのはかなりきついでしょう。てことで、やはりカロリーを制限したいんだとしたら意志力で減らそうとするよりも間欠式断食のように時間を制限するなど、自然にカロリー摂取量が減らせる工夫が必須でしょうな。

週1,2回歩くでも歩かないよりだいぶまし

健康のために一日何歩歩くのが正解なの?ってのはよくある疑問で、以前7,000歩くらい歩いとくとよさげよーみたいな記事を書いたことがありました。

で、最近新たにこの辺の問題に対して米国の成人を対象にした大規模な研究が発表されてたんでシェアしておきます。

この研究では、まず、2005年から2006年にNHANESに参加した20歳以上の3101人の成人を対象に、加速度計を1週間着用してもらって歩数や歩行強度(歩行時のエネルギー消費量(MET))を測定して、その後2019年12月31日までの死亡率を追跡調査したらしい。

その結果、

  • 10年間の追跡期間中に、全死亡と心血管疾患死亡はそれぞれ439人(14.2%)と148人(5.3%)に発生した
  • 全死亡率は、1週間のうち8000歩以上歩いた日数が多いほど低くなっていた。具体的には、8000歩以上歩いた日数が0日の参加者と比較して、1~2日の参加者では14.9%、3~7日の参加者では16.5%低かった
  • この関係は、年齢や性別、人種や民族性、保険状況、婚姻状況、喫煙、肥満度、腎機能、スタチン使用、糖尿病や高血圧などの既往歴などを考慮しても変わらなかった
  • また、1日あたりの平均歩数も全原因死亡率と逆相関していた
  • 一方で、歩行強度は全原因死亡率や心血管疾患死亡率との間で有意な関連は見られなかった

だったそう。要するに、毎日ではなくても週に1,2日8000歩以上歩くだけで全原因死亡率はかなり低下させることができるぞ!別に速く歩く必要もないぞ!ってわけですね。忙しくて毎日運動する時間がない人とか体力に自信がない人にとっても勇気づけられるデータと言えるでしょう。

まあ加速度計を装着してもらってた期間が短いとか、歩行以外の活動を測定していないとか、いくつか限界はありますけど、「毎日じゃなくても、まったくやらないよりまし」って考えに科学的な根拠ができたのはうれしいことじゃないでしょうか。

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