「歩行スピードが心身の状態を反映する!」っていう話は昔からありまして,どうも歩くのが速い人ほど心疾患系の病気や早期死亡のリスクだけでなく,アルツハイマーとかうつ病にもなりやすかったりするみたいなんですよね.
そんなところで新しい研究(R)では,「歩行スピードで死亡,心血管疾患,がんリスクが実際どのくらい変わるのか?」というポイントを調べてくれておりまして,参考になります.
これは,過去の研究から質の高い48件のコホート研究をまとめたメタ分析で,調査の概要をざっと確認してみるとこんな感じ.
- 総参加者数は101,945人
- 追跡期間の中央値は5.4年間(0.5~13.5)
- 平均年齢は72.2歳
- 45件が総死亡率,13件が心血管疾患,4件ががんと歩行スピードの関係を調べたもの
- 22件で,認知症やがんなど何らかの疾患を抱える人を対象にした
全体的に研究の質も高めとなっておりまして,なかなかいい感じじゃないでしょうか.
それで,分析の結果どんなことがわかったかと言いますと,
- 歩行スピードが0.1m/s遅いほど,
- 早期死亡リスクが12%高かった
- 心血管疾患の罹患リスクが8%高かった
- ガンとの間では有意な関係は見られなかった
といった感じ.これらはすべて複数の変数や出版バイアスを調整したうえでの結果でして,結構大きな関係がみられるみたいっすね.
ちなみに0.1m/sってのがどのくらいかっていうと,大体一般人の平均的な歩行スピードが1.0m/sくらいと言われるので,その10%くらいといったところ.気を付けておかないと,いつの間にか歩く速度が0.1m/s遅くなっていた,なんてことは十分ありそうなくらいの数字です.
もちろんこの結果における因果関係は不明なわけですが,研究チームは以下のようなメカニズムを推測しておられました.
- 糖尿病や関節炎など疾患を持っている人は歩行スピードが遅くなる?
- 内分泌系の機能不全や全身の炎症,酸化ストレスレベルが高い人ほど歩行スピードが遅くなる?
- 歩く速度が遅い人は歩いたり体を動かす時間も少ない?
みたいに,たとえ無症状でも筋肉や骨,神経,皮膚,呼吸器,心血管系など体内の何らかの機能が低下していることが原因で歩行スピードが遅くなって,それが心血管疾患や死亡につながっているかもしれないっぽい.
もしこれらの理屈が正しいとすると,どこかで歩行スピードとがんの間にも何らかの関係が発生している可能性は捨てきれないよなーとか思いました.
研究チーム曰く,
歩行スピードはたとえ高齢であったとしても容易かつ安価に測定できるものであるから,日常的に計測されるべきであるのだということを我々の仕事は示唆している.
とのこと.歩く速度が健康の身近なバロメータになるかもしれない,と.歩き方だけ見ればいいんで,見た目にもわかりやすいサインでいいっすね.
というわけで,健康状態を維持・改善するためにも,疾患を早期発見するためにも,歩行パターンには気を付けておいた方がよさげですなー.
参考になれば幸いです.質問やコメントなどありましたらTwitterやお問い合わせのページからご連絡いただけると嬉しいです.
それではっ!