「睡眠が大事!」っていうのは強調してもしたりません.睡眠が不足すると太るし,成績が下がるし,心身の病気のリスクが増えるしで,いいことは何もないんですよね.
が,実は意外とまだはっきりわかっていない問題がありまして,それは,
- 睡眠の質とガンリスクって関係あるの?
って問題です.がんにかかると睡眠の質が低下する!みたいな研究は多いんですが,将来のがんリスクを調べた研究って案外少ないんですよ.あったとしても,乳がんとか前立腺がんとか特定のがんリスクとの関係を調べたものが多くて,包括的ながんリスクを調べたものは希少だったりします.
といったところで,比較的最近に出たデータ(R)では,「睡眠の質と全体的ながんリスクとの関係」を調べてくれていていい感じでした.
これは,イギリスの50歳以上の男女1万人以上を対象にしたコホート研究で,2年おきに合計8年間のフォローアップを行ったもの.
この調査では「睡眠の質」の指標として,
- 寝つきの問題をどのくらい体験しているか?
- 夜に何回目が覚めるか?
- 起きたときどのくらい身体が回復している感じがするか?
- 睡眠の質は全体的に何点くらいか?
みたいな点を自己申告で回答してもらって,それに応じて睡眠の質を3段階に分類しました.これに加えてさらに,経済状況や年齢,家族のがん発症歴,運動習慣等を調整したうえで,睡眠の質と全体的ながんリスクとの関係を調べたんだそう.
睡眠の質の指標としてはちょっと大雑把な感じもしますが,比較的長期の研究である点,2年おきのフォローアップを行っている点などを考慮すると十分参考になりそうです.
それでどんなことがわかったかと言いますと,
- 経済状況やライフスタイルの要素等を調整した結果,ベースラインの時点で睡眠の質が高レベルだった人に比べて,中レベルだった人は8年後のがんリスク(HR)が32.8%,低レベルだった人は58.6%高かった.
- この傾向は,他のすべてのモデルを用いても確認された.
だったそう.つまり,睡眠の質が少しでも低いと8年経過後にがんを発症しているリスクが60%近く増加する可能性があるというわけっすね.しかも睡眠の質が中レベルでも30%以上リスクが高いってことで,恐ろしいっすな.
さらに研究チームは,睡眠の質の変化とがんリスクとの関係も調べておりまして,
- 調査の中間時点で高い睡眠の質を維持していた人に比べて,中レベルの質を維持していた人はがんリスクが61.5%高く,低レベルの質を維持していた人は60.8%高かった.
- 睡眠の質の改善,悪化とがんリスクとの間に有意な関係は見られなかった.
といった結果を得られたそう.睡眠の質を改善したとしてもがんリスクが減っていなかったっていうのは結構衝撃的で,現在の睡眠習慣が数年後のがんリスクを高めてしまってそれはもう取り返せないかもしれないというわけです.なんで,なるべく早いうちから高い睡眠の質を維持することが重要だってことを実感できます.
研究チーム曰く,
私たちの発見は,低い睡眠の質は,新しく,改善しうる,がんを発症するリスク要因であることを示している.
内科医やヘルスケアの担当者,そして一般大衆は,健康やウェルビーイングの促進のためにこの問題をより強く認識すべきである.
とのこと.これまでも睡眠の乳がんとかに対するリスクが特に強調されてきたけど,いろんながんのリスクとの関係性があるってことがはっきりしたわけで,がんリスクを軽減するための一手段として,睡眠の質にも気を配ろう,と.
睡眠の質の低下ががんを誘発するメカニズムははっきりしませんが,研究チームは以下のような要素を検討しておりました.
- メラトニン産生が抑制され,浸潤・転移,腫瘍の血管新生を阻害する働きが弱まっている?
- 体内時計の乱れによって自然免疫,獲得免疫の機能が弱まり,DNAが傷つけられやすくなっている?
- 睡眠の質が低い人はタバコとが運動,食事などの質も低い?
みたいなことが考えられておりました.どれもいろんな研究で実証されているポイントで,それなら全身でがんが発生してもおかしくないよなーとか思うわけです.
というわけで,今の睡眠の質の影響が数年後にがんとなって発現するかもしれないってことで,「やっぱりしっかり寝るぞ!」って思わせるには十分な話だなーと感じた次第です.
参考になれば幸いです.質問やコメントなどありましたらTwitterやお問い合わせのページからご連絡いただけると嬉しいです.
それではっ!