地球温暖化が問題視されている昨今,熱中症や血管性の疾患をはじめとして,気温上昇による身体的な影響が注目される一方,メンタルへの影響はほとんど話題に上がらない気がしております.
実際,気温上昇や熱波によるメンタルへの影響のデータは多くあるものの,研究の対象となった場所とかによって結構ばらつきが多かったりするんですよ.
ということで,新しい研究(R)では,「気温の上昇でメンタルが病むのか?」ってのをがっつり調べてくれておりました.
これは53件の研究をまとめたアデレード大学などのメタ分析で,「気温上昇がメンタル系の罹患や死亡にどのくらい影響しているか?」ってポイントを評価してます.気温上昇との関係で,1990年~2020年の170万人分の精神衛生上の死亡症例,190万人分の罹病例のデータをチェックしました.
分析に含まれた対象地区はアジア,オセアニア,ヨーロッパ,南北アメリカといった広い範囲にわたっていて,106の都市と地域で行われた調査が含まれたそう.
ここでいうメンタル系の疾患っていうのは,ICD-10っていう分類に従ったもので,不安障害,鬱,気分障害,統合失調,認知症なんかが含まれます.さらに,年齢や性別,気候分類による違いなんかもチェックしたんだそう.全体的なエビデンスの質も中程度で,いい感じです.
でもってまずは大きな結論はというと,
- 気温が1度上がるごとに,精神衛生上の死亡率が2.2%上昇する!
- 気温が1度上がるごとに,精神衛生上の罹病率が0.9%上昇する!
だったそう.こうしてみると,「気温上昇ってメンタルに結構強く影響あるのかもなー」って気がしてくるんじゃないでしょうか.
さらに詳しくデータを見てみると,
- 死亡率との強い関連がみられたのは,物質関連(アルコールや薬物等)の障害(有意差はなし),器質性精神障害(徐々に脳機能が低下していく障害),自傷行為などだった.
- 罹病率との強い関連がみられたのは,気分障害,器質性精神障害,統合失調症,不安神経症などだった.
- 女性よりも男性のほうが気温上昇による精神衛生上の死亡,罹病リスクが高かった.
- 65歳以上の人のほうがそれ以下の人よりも死亡,罹病リスクが高かった.
- 熱帯,亜熱帯の人のほうが死亡,罹病リスクが高く,大陸性気候のほうがそれぞれのリスクが低かった.
- 3日間にわたって平均気温の90%以上上昇した場合の罹病率は75.3%上昇した.
といった感じ.幅広く気温上昇のメンタルへの影響を確認できるかと思います.なんとも恐ろしいですな.
もっとも,あくまで観察研究なんでそのメカニズムははっきりしませんが,研究チームは以下のような原因を想定しています.
- 熱によって,気分や認知機能にかかわるセロトニンやドーパミンのバランスが崩れる?
- 炎症や心理的ストレスで生理的な機能が下がる?
- 鬱や認知,記憶にかかわる海馬等で神経炎症が起こる?
- 暑さで睡眠障害,睡眠不足につながる?
- 認知機能が衰えた高齢の人とかはストレスフルな環境に適応できない?
みたいなことが想定されていました.どれも動物実験等で確認されている点を考慮すると,これらの要素が複雑に絡み合って発症しているのかなーって思いました.
研究チーム曰く,
地球温暖化の文脈において,地元の当局やサービスの提供者がメンタルヘルスの問題を熱波の警戒システムと結びつけ,熱に関連したメンタルヘルスの死亡,罹病の予防を目したヘルスポリシーやガイドラインを作ることは有用だろう.
とのこと.もっと気温上昇のメンタルへの悪影響を重大なものとして考えようぜ!ってわけですな.
というわけで,これから暑い季節になりますんで,メンタルを健康に保つために,各個人でできることとして「とりあえず寝るときは部屋を涼しく保つ」ってくらいは頭の隅に入れておくといいかもしれません.
参考になれば幸いです.質問やコメントなどありましたらTwitterやお問い合わせのページからご連絡いただけると嬉しいです.
それではっ!