自己認識(self-awareness)とは?
近年は、個人個人を尊重し、自分を大切に、というようなことばをよく聞きます。たしかにそれは素晴らしいことであることに違いはないと思うのですが、一方で、そのような教えのせいで、自分が特別と信じて疑わないという風潮があるように思います。
いうても、個人個人の差はちっぽけなものに過ぎないことも少なくないのに、人は、自分が集団の中で少なくとも平均以上だと信じていることが少なくない、ということが多くの研究によって明らかになっています。
「自分のことをよく知ること」みたいなことはよく言われる現代ですが、その定義はあいまいであり、実際には自分が思いたいように自分を思っているということが多いのが現状です。つまり、自分に都合のいいように見える眼鏡をかけて世界を見ているのです。
その中でも本当に「自己認識」ができている人というのは存在して、彼らは多くの面で「自己認識」ができていない人よりも優れた人生を送れています。ここでいう「自己認識」とは、組織心理学者のターシャ・ユリックさんの定義を借りれば、「自分自身のことを明確に理解するチカラ。自分とは何者であり、他人からどう見られ、いかに世界へ適合しているかを理解する能力」となります。
つまり、自分自身が本当の自分自身のことを正確に理解し、また、周りから見たときの自分のことを客観的に見ることができる能力ということになりましょう。それを実際に行えている人は少なく、例えば、目標について考えると、いつの間にか身近な人や尊敬する人などの目標をそのまま自分の目標のように考えていることで、それを達成しても想像していた満足感、達成感を得られなかったりするわけです。また、自分のことはよくわかっていたとしても、他者からの視点を持てていないと、他者からのサポートを得ることができなかったり、他者が本当は何を必要としているのかを理解できないわけですから、他者に対するサポートもできず、結局孤立してしまうことも少なくありません。
このように、内から見た自己認識と、外から見た自己認識をどちらも兼ね備えていることが真の幸福のためには必要となるわけです。
自己認識ができている人は頭がいい
以上のような自己認識がしっかりできている人は、頭がよいことが確認されています。
8歳から16歳までの138人の生徒を対象にした実験で、そのことが確認されています。
考えてみれば当然で、自分自身の現状の能力を正確に把握し、自分が足りないところを積極的に補うことが成績、能力の向上につながるのですから、自己認識がしっかりできている人はそれを当然にできるのに対して、自己認識ができていない人は、「自分はやればできる」「本番ではできる」みたいに根拠のない自身で自分自身を欺いてしまうわけですから。
自己認識ができている人はより良いキャリアを選択する
自己認識ができている人はキャリア選択もうまいことも別の研究でわかっています。
288人の大学生を対象にした調査によれば、キャリア選択と、EI(emotional intelligence) と、キャリア選択のポジティブな関係性が確認されています。EIというのは、自分や周囲の問題と向き合うための忍耐、洞察力、想像力を獲得するために必要といわれている能力です。そしてそれを測る指標として用いられるのが、共感とか、人間関係とか、自分をコントロールする能力などです。つまりこれは主に外から見た自己認識に強く関係していると考えられます。
自分が本当にやりたいこと、本当に幸福度を高められる仕事に、そして外から見て自分がどの部分で優れているとみなされているのか、必要とされているのか、を正確に把握できることから、いいキャリア選択につながっていると考えられます。キャリア選択は人生を大きく左右する重大な事項ですから、これを高い確率で成功させるということは、人生を幸福度の高いものにするために重要なことといえるでしょう。
自己認識ができている人は、クリエイティブ
自己認識ができている人はクリエイティビティが高いということが多くの研究によってわかっています。例えば、自己認識が高い人のほうが、ナイフのクリエイティブな使い方を思いつく、という実験も有名です。
その原理ははっきりとは明らかにはなっていませんが、クリエイティビティは幸福度の高い生活の中では非常に重要な要素です。クリエイティビティは、問題解決能力と強く関係しており、何か人生でぶつかった大なり小なりの障壁を乗り越えていけるかということに直結します。それは仕事でもプライベートでも同じことです。
仕事に関してのクリエイティビティの重要性は想像しやすいかもしれませんが、プライベートの例として、例えば恋人との関係において、ちょっとしたことで喧嘩をしてしまったとき。クリエイティビティがあれば、想像力を働かせ、相手が何に怒ってしまったのか、そしてどうすれば仲直りできるのか、最善の方法を考えられるようになります。それができるかできないかで、より強い信頼関係を持った関係につながるか、そこで関係が終わってしまうかにつながってきます。人間関係以外でも同様に、自分の人生の真の目標を達成するために立ちはだかる障壁に対して効果的な解決策を見つける能力は幸福度の高い人生に対して必須でしょう。
自己認識ができている人は、より自信がある。
88人の労働者を対象にした研究では、自己認識がある人はより自信を持っていることがわかっています(P)。
自己認識を高めることで、自信が高まるのです。少し矛盾があるように感じるかもしれません。自己認識がある人は、謙虚であるようなイメージがあるかもしれませんが、自信の種類が異なるのです。
自己認識がない人の自信というのは、根拠がなく、自分はやればできるのにやっていないだけだ、みたいな漠然とした自信であって、ポジティブな影響はないのです。一方、自己認識がある人の自信というのは、「自分はここまでのことならほかの人よりも優れた能力を持っていて、それは周りの人も認めている」と、根拠をもってはっきりとした自信なのです。
だから、自分が信頼し、周りも信頼している特定の領域においては、自信をもって、責任をもって、精いっぱい取り組めるのであります。そしてそれ以外の領域においては、自分の能力が不十分であることを認め、他者に頼ったり、教えを買うたりすることができて、結局生産性高く仕事を行うことができ、人生の満足度も高くなるのです。
まとめ
以上のように、自己認識がしっかりできている人は、あらゆる面で人生の幸福度が高いことがわかります。それ以外でも誠実性や人間関係などでもポジティブな関係がみられることが他の研究等によりわかっています。自己認識を高めることによって、いろんな角度から、総じて人生の満足度を高めることができるわけです。
そして自己認識は、生まれ持った才能などではなくて、鍛えることが十分可能な能力であり、その方法についてはまた機会があれば。
それではまた。
References
- Vladimir D. Shadrikov. 2013. "The role of reflection and reflexivity in the development of students’ abilities"
- Chris Brown et al. 2003. "The Role of Emotional Intelligence in the Career Commitment and Decision-Making Process"
- Silvia, P. J. 2004. "Self-awareness and constructive functioning: Revisiting "the human dilemma."