「こんなに話を聞くつもりじゃなかったのに!!」
ちょっとだけといわれたから話を聞いたり、手伝ってあげることを同意したのにあとから「これも追加していいかな?」とか言われて結局予想以上に時間をとられたりした経験ありませんか?
このように、最初に決めたことをやり通そうという人間の心理を心理学の用語で「一貫性の原理」といいます。最近ではビジネスでも活用しているところが多い印象を受けます。
わたしもつい先日一貫性の原理の被害者(?)になってしまいました。というのも、高校時代の部活の後輩から、大学受験についての簡単なアンケートのようなものにこたえてほしいといわれました。もちろんそこできっぱり断ることもできたわけですが、高校時代には世話になったこともあったし、すぐ終わりそうだから、協力しようとなったわけです。
わたしは勝手に記述式のアンケートのようなものだと思っていたのですが、あとから聞くとzoomを使って行うというのです。記述式のものなら場所も時間もある程度自由にできると考えていた私にとって、時間を決められて、縛られるのは抵抗がありました。会話形式だと時間もかかってしまうところも正直嫌でした。もしかしたら最初からこれを言われていたら最初の段階で断っていたかもしれません。それでも引き受けたのは「一貫性の原理」が働いていた証拠ではないでしょうか。
さらにその後、zoom会議を始める直前になってどのくらいの時間がかかるのかを尋ねるとなんと2時間程度もかかるというのです。事前に確認しておかなかった私も悪いのですが、それには正直相当戸惑いました。それでも直前ということもあったし、なにより自分がやると決めたことをやり通したいという心理(一貫性の原理)が働いていたので、断ることはできませんでした。これを最初から知っていれば100%に近い確率で断っていたことでしょう。
前置きが長くなりましたが、一貫性の原理については理解していただけたでしょうか。今回は、一貫性の原理を使って、何かいいことに使えないのかということについて簡単に考えたいと思います。(別に一貫性の原理が必ずしも悪いものであるとは思っていません。何事も使い方次第です。)
以前から、病院に一回行ってもらうといった比較的障壁の低いことをきっかけに、運動を始めて継続するとか、食生活を改善するとかいった生活スタイルを変えることができないかと考えられていていくつか研究もおこなわれています。
それが実現できれば、もちろん患者、国民の健康の改善につながります。そしてそれは国の大きな費用の削減にもつながるのです。
実際、ドイツで7万人以上を対象にしたコホート研究では、ちょうどいい動機付けを対象者に与えることによって、病気予防プログラムへの参加意欲が向上し、一人当たりの年間の医療費が100ユーロ(1万2千円程度)の削減になったことがわかっています。
もし日本で全人口に対して同じような結果が得られたとすると単純計算で、1年に1兆円を超える削減になるということです。もちろん簡単にはいかないでしょうが、消費税を上げるとかいうあまり根拠のない(死亡率の増加にもつながりうる)政策をするよりかはいい方法なのではないでしょうか。
また、カナダの成人14万人以上を対象にした大規模な研究では、健康のためのインターネット上のプログラムに参加してもらうことを目標にして、最初に簡単なきっかけを与えることによってその参加率を増えることを予想して以下のような実験を行いました。
- 半数には、ポイント稼ぎの機会を与えた。20ポイントをためると、2ドル相当のエアマイルポイントがもらえる。
- 10ポイント貯めるには、心臓発作とか、脳卒中に関する調査を完了する必要がある。さらに10ポイントをためるには、インターネット上のプログラムに登録する必要がある。
- 残りの半数には、以上のような報酬をもらえる機会は与えなかった。
その結果、何もしなかったグループで、プログラムに登録したのは、4.07%だったのに対して、報酬の機会をもらったグループでは、52.96%もの人がプログラムに登録していたことが分かったのです。これは27倍もの確率でプログラムに登録することを示唆しています。これは、年齢や性別、学歴、信仰、雇用状況、リスクファクターを調整した結果です。
もっとも、その後にプログラムに参加する度合いはどちらのグループも相違がなかったことがわかっています。
つまり、ちょっとした報酬をもらうことで、プログラムに登録する率を高めることが分かったけれど、継続して参加してくれるとは限らないということですね。
ってことで、まだ継続して国民に健康について考えてもらったり生活習慣を改善するためのいい方法は検討の余地ありという感じですね。
それでも人間の心理として、一貫性の原理が働いていることは間違いないと思われますので、うまく活用することによって、人々の健康レベルが向上し、結果的に国の予算とかも減らせたらいいですねー。少子高齢化とかも大変なんでどうにかしていきたいところです。
それではまた。
references
- Stephanie Stock et al. 2010. "Financial incentives in the German Statutory Health Insurance: new findings, new questions"
- Sam Liu et al. 2014. "The Effectiveness of Loyalty Rewards to Promote the Use of an Internet-Based Heart Health Program"