「大気汚染はよくない!」ってのは常識で,空気が悪いと身体へのダメージだけでなくメンタルへのダメージにもつながる可能性がありますんで,どうにかしておきたいところではあります.
ってところで新しい論文(R)では,「大気汚染で肥満になる!(かも)」って内容になっておりました.
これは,セントルイス大学などの調査で,アメリカの軍人省のデータベースから,390万人以上の大人の,体重やBMI等をおよそ8.1年間にわたって追跡.と同時に,対象者の居住地域のPM2.5による大気汚染の状況も調べて,二つの相関を見ております.対象者は肥満,太りすぎの人は除外し,平均年齢はベースライン時点で64歳,94%が男性だったそう.
要するに,中年から高齢の人たちにおいて体重と大気汚染の関係を調べたわけです.動物実験では,「大気汚染で体重が増える!」「BMIが増える!」みたいなことが複数確認されていたんですが,それが人間にも当てはまるのか?ってのを考えるのには非常に参考になりましょう.
それでどんなことがわかったかと言いますと,
- PM2.5濃度が10μg/m3上昇すると,総死亡リスクが25%上昇した.
- 死亡リスク,喫煙経験等の要素を調整した結果,年間平均のPM2.5濃度が10μg/m3上昇すると,肥満になるリスクが8%上昇し,体重が10ポンド(4.54㎏)上昇するリスクが7%上昇した.
- 個人間の変化で見ても,PM2.5の濃度が高い地域に住んでいる方が体重やBMIがより増加する傾向がみられた.
ということで,PM2.5が肥満,体重増加のリスクが高まることがよくわかります.
研究チーム曰く,
推定される肥満や10ポンド(4.54㎏)の体重増加の発生に対する曝露反応機能は,PM2.5の最低濃度(2.4μg/m3) 以上の全濃度─つまり2012年の国家環境大気質基準の12μg/m3を下回る濃度を含む─でポジティブな関係があることを示唆している.
とのこと.現在の基準を下回っていても,体重増加,肥満につながる可能性が十分あるってことですな.総死亡率等を調整してもなお相関が確認されていることから見ても,PM2.5が体重増加等につながっているんじゃないの?って考えられるわけです.
日本の環境基準においては,1年平均15μg/m3,1日平均35μg/m3となっているわけですが,これを下回っていても体重に与える影響は残存しているかもって想定されるわけですね.
ちなみに,それって若い人には影響ないんじゃないの?って思われる方もいるかもしれませんが,子供や若者を対象にした研究でも,PM2.5の曝露が多い方が体脂肪,体重が多いという報告もありまして,年齢はあんま関係ないんじゃないかなーって感じです.
もっとも,これは男性中心のデータですんで,女性に同様に当てはまるのか,もともと肥満体の人はどうなのか,運動や食事習慣で変わらないのか,みたいなところははっきりしません.この辺りは今後の研究に期待ですな.また,自動車の交通量が多い地域の方が肥満が多い!っていうのはもちろん運動不足もありましょうが,微小粒子とかも関係しているのかも?なんて思いました.
そのメカニズムはよくわからんところですが,動物実験なんかを考慮すると,
- 微小粒子が肺ほうへ
- 血流にのって全身の器官へ
- 脂肪組織の中の脂肪細胞の脂質生成にかかわる遺伝子を活性化
- 脂肪細胞のサイズが肥大化
- 脂肪,内臓脂肪が増える
- 太る!
または,
- 微小粒子が全身へ
- 脂肪組織に浸透するマクロファージが増加
- 炎症性サイトカインの濃度が上昇
- 脂肪細胞のミトコンドリアの機能が減退
- レプチンやアディポネクチンが増加
- インスリン抵抗性が増加
- 太る!
みたいなことが想定されておりました.
てなわけで,まだまだ分からないことだらけではありますが,大気汚染が心身に与える影響は多大だ!ってことだけでも心しておきたいところです.やっぱり外に出るときはマスクは欠かせませんな.
参考になれば幸いです.質問やコメントなどありましたらTwitterやお問い合わせのページからご連絡いただけると嬉しいです.
それではっ!