「体重管理が大事!」っていうのはみなさん耳タコでしょう.血管とか,肉体的な健康はもちろんのこと,BMIを改善すれば頭もよくなる!みたいな話もよく聞きます.
そんなところで,「肥満の子供の成績が低いのは”あれ”が原因だ!」みたいな研究(R)が面白かったのでメモ.
まずは,実験の概要を確認してみるとこんな感じ.
- 中国の11歳から13歳の子供159人を集めて,BMIによって以下の3つのグループに分ける.ⅰ)肥満(BMI≧30) ⅱ)太りすぎ(BMI≧25) ⅲ)標準(18.5≦BMI<25)
- 子どもたちには,ランダムに3種類のタスクに取り組んでもらってワーキングメモリを測定
- 昨年度の学校の成績と社会経済的ステータス(両親の収入,教育レベル,職業など)をチェック
太っていると,ワーキングメモリが低下する結果として,学校の成績が下がるのではないか?と考えたわけですな.
ワーキングメモリの測定に使われたのは,「デジットスパン課題」と呼ばれる,表示された数字を逆順に復唱するっていうやつが用いられたそう.これ自体はよく使われる定番のやつなんですが,このテストで独特なのは,以下の3つのタイプでデジットスパン課題に取り組んでもらったこと.
- 普通に数字だけが表示されるもの
- 数字と一緒に食べ物や飲み物のマークが表示されるもの
- 数字と一緒にディズニーのキャラクターとかが一緒に表示されるもの
要するに,肥満の子供のワーキングメモリの低下は,すべての分野で共通しているものではないんじゃない?ってことを確認したわけです.
で,以下に結果です.
- BMIが高いほど,学校の成績が低い傾向がみられ,この傾向は親の収入等を調整してもなお確認された
- BMIが高いほど,全体的なワーキングメモリが低い傾向がみられた
- ワーキングメモリが低いと,学校の成績も低い傾向がみられた
- ワーキングメモリを調整しても,なおBMIと学校の成績との間の相関は残った(7%減)
- 食べ物やドリンクのマークがついたタスクにおいては,肥満の子供のほうが,標準体型の子供よりも高いスコアを記録した
ってことでして,肥満の子供の成績低下の一因はワーキングメモリにあるかもよ?と.さらに,太っている子供は食べ物の表示に対して敏感に反応したってことで,体重増加によるワーキングメモリへの影響は分野特化型かもしれないってのが面白いところ.
研究チーム曰く,
この結果は,肥満の子供が食べ物や飲み物のマークがついたメモリータスクに対してより敏感に反応したように,肥満の子供は通常の体重の子供とは異なる学習,記憶のプロセスをたどっているのかもしれないことを示唆している.
(中略)
肥満の人は,食べ物の手がかりがあることで,外界の情報が素早く鮮明に内的表現として整理され,空間スキーマとして保存されるというイメージによって,記憶効率が向上する,というメカニズムが考えられる.
とのこと.食べ物のマークと一緒に写っていた数字もちゃんと記憶していたことを考えると,食べ物の情報を提示されることで,周りの付随的な情報に対しても脳がしっかり反応してくれるようになるのかもしれないっぽい.
ただ,サンプル数が少ないですし,必ずしも「食べ物と一緒に覚えれば記憶力が上がる!」とは言えないでしょう.一方で,太っていると成績が低くなりがち,という傾向は広く確認されているんで,やっぱり脳のパフォーマンスを最大化するためにはまずは体重管理をしっかり行うほうが先決ではないかと思う次第です.
とはいえ,どうしても覚えられないことを覚えたいときとかに,自分の好きなものと結びつける,みたいな方法は十分使えるかもしれませんな.
参考になれば幸いです.質問やコメントなどありましたらTwitterやお問い合わせのページからご連絡いただけると嬉しいです.
それではっ!