最近読んで面白かった「メンタル」周りのデータを3つほどメモしておきます!
長期宇宙滞在がメンタルに及ぼす影響と対策
月で長期探査!火星にクルーを送り込む!って具合に宇宙ミッションがどんどん計画されている昨今ですが、障壁は技術的なものだけにあらず。ミッション中にはほんの数人の仲間と、狭い空間で、数か月単位の生活を送らなければならないわけですから、精神衛生上のケアも決して無視できるものではないでしょう。
そこで最近の研究(R)では、月面基地を想定した空間で61日間生活を送った際のメンタルへの影響と、ダメージを緩和するための方法はあるのか?ってあたりを調べてくれていて面白かったです。
参加者の2人にはマイナス30度の外気温と暗闇の中、実験や氷を収集するというタスクを毎日こなしてもらい、一日の終わりにはネガティブ感情、孤独感、無力感等を尋ねるアンケートにも回答してもらったらしい。そのうえで、2人の変化をチェックしたところ、
- いずれの参加者もミッションが進むにつれて社会的接触への欲求が高まったが、ネガティブ感情やあきらめの気持ちの増加は確認されなかった
- ただし、ある日のあきらめの感情は翌日のあきらめの感情と関連しており、いったん無力感等を抱いてしまうと回復するのが難しい可能性が示唆された
って感じだったらしい。孤立や仲間はずれが諦めにつながりやすいってのはよく確認されてきたことですけど、自分でその状態に飛び込むことを選んだ場合にはダメージを受けにくいのかもしれないですな。
さらに、ネガティブな感情体験を軽減する活動も確認されてまして、
- 相手とプライベートな話をしたり、長時間余暇活動を行ったりするとあきらめの感情が軽減した
- また、余暇活動を行うと時間の経過が早く感じられるようになった
- プライベートな事柄について話したり、運動をしたりすると社会的な接触に対する欲求が高まった
だったそう。まあこの実験はたった2人を対象としたものだし、しかも両者はこの実験で使われたハビタットを製造した会社の共同設立者だったらしいんで、一般化することは難しいですけど、近々宇宙に行く予定のある方は頭に入れておいていただくとよいんじゃないかと()。
メンタルによりいいのはチームスポーツか個人スポーツか?
スポーツは肉体だけでなくメンタルにもいい!って話はよく聞きますが、新しい研究(R)では、「チームスポーツと個人スポーツでメンタルに与える影響はどう違うんだろう?」みたいなところを調べてくれておりました。
これは9歳から13歳の子供11,235人のスポーツへの取り組み状況とメンタルヘルスの関係を分析したもので、家庭の収入や身体活動量等を考慮した結果、以下のようなことがわかりました。
- チームスポーツをしている子供は、何もしていない子供に比べて、不安、うつ、社会的問題、引きこもり、注意力低下の兆候が少なかった
- 一方、個人スポーツだけをやっている子供は何もスポーツをしていない子供に比べて不安、うつ、社会的問題、注意力低下のスコアが高かった
- チームスポーツと個人スポーツの両方をやっている女児は、スポーツをしていない子供に比べてルール違反行動をとる傾向が低かった
まあこれはよく言われることですが、チームスポーツは身体能力の強化以外に他人との付き合い方やリーダーシップを学べるお陰で問題解決能力や自信も身につけられて、メンタルも安定しやすいのでは?ってわけですね。
ただし研究者は、この結果を見て、「個人スポーツは悪だ!」「子供たちには全員チームスポーツをやらせるべきだ!」って結論すべきではないぞ!と強調しておりまして、曰く、
チームスポーツは、チームメイトとの共同や協力の仕方を学ぶ機会を提供するが、必ずしも個人スポーツより劣っているというわけではない。
趣味や嗜好の違いもある。得意なことと、好きなことは別だ。スポーツをする上で、決して見落としてはいけないのが、楽しむということだ。スポーツは楽しいものでなければならない。スポーツは楽しくなければならないし、自分の人生にプラスになるようなものでなければならない。
チームメイトに対するフラストレーション耐性が低い子供たちや、人前でパフォーマンスをしたり、チームを失望させたりすることに不安を感じやすい子供も多い。
すべてのスポーツが同じように作られているわけではなく、それは子どもたちも同じなのだ。
ということで、特に自閉症や不安症、神経障害を持つ子供たちにチームスポーツを強制するとそれこそ大きな問題につながりやすいから、そういう場合には積極的に空手、水泳、テニス、陸上等の個人スポーツを検討してみるのもありなんじゃないか、と。
ってことで、子供にチームスポーツをやらせたい!って場合にも特定の競技を強制するより本人が興味を持てるようなスポーツを探す手伝いをしてあげるのがよろしいのではないでしょうかー。
ヴァーチャル空間上での運動を「見てるだけ」でメンタル改善?
個人的に秘めたるパワーを感じているのがVRです。以前には「たった3分のVR森林浴でストレスが40%も低下したぞ!って研究のお話」なんてエントリを書いたこともありました。
といったところで東北大学から出てた新たな研究(R)では、「VRの中でで運動してる自分のアバターを見ているだけでストレス解消になるのでは?」みたいな話になってて面白かったです。
ここでは健康な若い52人の参加者を、(ⅰ)一人称視点でアバターが30分のランニングをしている映像を見てもらう、(ⅱ)三人称視点で同様の映像を見てもらうという2つのグループに分けて、セッション後のストレス反応とかを調べてみたらしい。
その結果、どんなことが分かったかといいますと、
- 一人称視点での映像を見たグループでは、実際には座っている状態でも、仮想空間上の動きに合わせて心拍数が増減していた。
- また、セッション後には唾液中のαアミラーゼ(ストレスレベルを示す)が低下し、主観的な不安レベルも低減していた。この度合いは実際に運動した後と同等のものだった
- その後、健康な高齢者を対象とした追跡調査でも、同様の結果が確認された(一回20分のセッションを週2回、6週間行った)
要するに、VRを見て運動してる気分になるだけでストレスや不安が軽減する可能性が示唆されたわけで、心臓が弱い方やけがをしてて満足に運動できないときにはうれしいですね。
研究チーム曰く、
このようなバーチャルトレーニングは、特に日本のように高いパフォーマンスが求められ、高齢化が進んでいる国においては、新しいフロンティアを示すものだ。
とのこと。エンタメとして開発されたはずのIVRがここまで臨床への応用も期待されるってすごい。。